ない、おとぎばなしの仮定のうえに立つ推定なのですよ。それでも気味が悪いですか」
 蜂矢が皮肉ではなく、まじめにたずねた。
「うむ。なんだか知らないが、ぼくはいましがた、とつぜんいやな気持におそわれた。いままでの経験にないことだ。そうだ、これはきみの話し方がじょうずなせいだろう。ぼくはやっぱりおとぎばなしなんか信じることはできないね。はははは」
 と検事は笑った。そしてタバコを口へ持っていったが、火は消えていた。
「ところが検事さん。いままでの話は、おとぎばなしや仮定であったかもしれんですが、ここに新しく、厳然《げんぜん》たる怪事実が存在することを発見しました。このものは、考えれば考えるほど、おそろしい正体《しょうたい》を持っていると思われてくるのです。まさに二十世紀がわれわれに、おきみやげをする奇蹟《きせき》である。というか、それとも、われわれは実にばかにされていると思うんです」
 蜂矢の目が、あやしく光ってきた。
「それは何だい。きみのいっていることはチンプンカンプンで、意味がわかりゃしない」
「いや、そうとでもいわなければ、その怪事実のあやしさ加減《かげん》をすこしでも匂《にお》わ
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