ってからだ。五分もしてからだと思う。それにさっきもいったように、この頭痛はわたしだけでなく、あとからきくと他の同僚たちも、みんなおなじように頭痛におそわれたそうだ。これと博士の態度とに、なにか関係があるのかな。いや、それほどにも思われないが……」
「そのとき博士のほうはどうだったでしょう。やっぱり頭痛になやんでいたようすでしたか」
「ちょっと待ちたまえ」
 と検事は腕ぐみをしたが、まもなく首を左右にふって、
「いや、針目博士は頭痛になやんでいるような顔ではなかったね」
「それはどうもおかしいですね」
 このちょっとしたことがらが、後になってこの事件解決のかぎになろうとは、気のつかないふたりだった。


   大学生、雨谷《あまたに》君


 せっかく蜂矢探偵の登場を、みなさんにお知らせしたが、ここで蜂矢探偵のことをはなれて、べつの事件についてお話しなくてはならない。それというのが、まことに前代未聞《ぜんだいみもん》の珍妙なる事件がふってわいたのである。
 東京も、中心をはなれた都の西北|早稲田《わせだ》の森、その森からまだずっと郊外へいったところに、新井薬師《あらいやくし》というお寺が
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