いなかった。
事件はいよいよ奇怪な段階に突入した。いったいこれは何者の死体なのであろう。針目博士の身辺にいよいよ疑問の影がこい。
警部じれる
「おう、ここにも死骸《しがい》がかくしてある」
警部のそばにいた若い巡査が、おどろきの声をあげた。
針目博士は、しらぬ顔をして、回転いすに腰をかけている。
警部は、その死骸いりの大きな引出をひっぱり出した。消毒薬くさいカンバスにおおわれて若い男の死体がはいっていた。しかしその男の頭蓋骨は切りとられていて、その中にあるはずの脳髄もなく、中はからっぽであった。
警部は、この死体が、学術研究の死体であることに気がついた。
ねんのために、おなじような他の引出をかたっぱしからひっぱり出してみた。するとほかに、男の死体が一つ、女の死体が二つ、はいっていることがわかった。
「この死体は、どうして手にいれましたか」
川内警部は、やっぱりそのことを針目博士にたずねた。
「研究用に買い入れたんです。証書もあるが見ますか」
「ええ、見せていただきましょう」
警部はけっきょくその死体譲渡書《したいゆずりわたししょ》が、正しい手つづきをふんで
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