んたんであり、そして明瞭《めいりょう》であった。
それによると、博士は昨夕《さくゆう》いらい、徹夜実験をつづけていたこと。犯行の音も聞かず、犯人のすがたも見なかったこと。そして博士はその徹夜のうち、二度ばかり実験室を出てかわや[#「かわや」に傍点]へいっただけで、他は実験室ばかりにいたことを述べた。
検事は、博士のことばについて、いろいろとものたりなさを感じた。あれだけの殺人が、十|間《けん》ほどはなれているにしても、同じ屋根の下で行なわれたのに、被害者の声も耳にしなかったというのはおかしく思われた。
「じゃあ、誰がお三根を殺したと思われますか。ご意見を参考までにお聞きしたいのですが」
「知らんです。人の私行《しこう》については興味を持っていません」
「まさかあなたがその下手人ではありますまいね」
検事のこのことばは、はじめてこの無神経な冷血動物《れいけつどうぶつ》のような博士を、とびあがらせる力があった。
「な、何ですって。ぼくが殺したというのですか。どこにぼくがこの女を殺さねばならない必要があるのです。さあ、それをいいたまえ、早く……」
長身の博士が、髪をふりみだして、両手
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