したが、この家のお松とおしげが持ってきたブドー酒をのんだあと、すっかり元気をとりもどした。
「ああ、検事さん。かんじんの用むきを忘れていましたが、さっき針目の室まで行って博士に会い、あなたが会いたいといっていられることをつたえようとしたんですが、博士は入口のドアをあけもせず、“会ってもいいが、いま仕事で手がはなせないから、あとにしてくれ。あとからわたしの方で行くから”といって、さっぱりこっちの申し入れを聞き入れないんです」
「なるほど」
「わたしはいろいろ、ドアをへだててくりかえしいってみたんですが、博士はがんとして応じません。ろくに返事もしないのですからねえ、係官を侮辱《ぶじょく》していますよ」
田口警官は、ふんがいのようすであった。
「向うでいま会いたがらないのなら、会わないでもいいさ」
と検事はさすがにおちついていた。
「しかしこの怪事件について、博士はじぶんの上に疑惑《ぎわく》の黒雲《こくうん》を、呼びよせるようなことをしている」
「ねえ、長戸《ながと》さん」
と川内警部《かわうちけいぶ》がいった。
「わしはこの邸《やしき》にはふつうでない空気がただよっているし、そしてふ
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