頭上に、一撃を加えるどころのさわぎではない。かれ自身がすくんでしまったのだ。
「蜂矢さん。もうだいじょうぶだ。横へ逃げなさい」
あとからあらわれた針目博士がいった。
いったい、どっちがほんとうの針目博士であろうか。
蜂矢探偵は、壁ぎわをはなれて、自由の身となったが、この問題を解《と》きかねて、あいさつすべきことばに困った。
「おい、金属Q。こんどは、廻れ右をして壁を背にして、こっちへ向くんだ」
金属Q――と、しきりに、あとからあらわれた博士が呼んでいるのが、はじめからいた方の針目博士のことだった。――ほんとかしら――と、蜂矢は目をいそがしく走らせて見くらべるが、顔はよく似ていて、くべつをつけかねる。
金属Qと呼ばれた方の博士は、しぶしぶ動いて壁に背を向け、こっちへ向きなおったが、とつぜん早口で叫んだ。それは、妙にしゃがれた声だった。
「きさまこそ、金属Qじゃないか。わしは針目だぞ、ごまかしてはいかん。しかし、わしは今、抵抗するつもりはない」
頭に繃帯を巻いた方が、こんどは機銃みたいなものを抱《かか》えた方にたいし、金属Qよばわりをするのだった。これではいよいよどっちがほんも
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