んたんに、その後、邸内《ていない》におけるかわったことはないかとたずねた。
「いやあ。さっぱりございませんな。どなたも、ずっと見えませんですよ。あまり静かで、墓地《ぼち》のような気がしてまいりますわい」
 貞造は、そうこたえた。
 蜂矢は、それからいよいよ第二研究室のあとに立った。かれは首をひねって、焼跡《やけあと》の四隅《よすみ》にあたるところをシャベルで掘った。下からは土台石《どだいいし》らしいものが出てきた。その角のところへ、かれは竹を一本たてた。それからなわをもちだして、竹と竹とを一直線にむすんだ。
 するとなわばり[#「なわばり」に傍点]の中が、第二研究室の跡になるわけであった。
 蜂矢は、それをしばらく見ていたが、こんどは別のなわ[#「なわ」に傍点]の切《き》れ端《はし》を手に持って、第二研究室跡のうしろへまわった。そこは、すこしばかりの土地をへだてて、石造りのがんじょうな塀《へい》が立っていた。そして塀の内側には、樹齢《じゅれい》が百年近く経ている大きなケヤキが、とびとびに生《は》えていた。
 ちょうど、その研究室跡に近いところに一本のケヤキが、むざんにも枝も葉もなくなっ
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