歩くというのはおかしい。
だが、死体がなくなったことは、まちがいない。出口は、方々にある。そのどこかを抜けて通ったものにちがいない。
死体置場は、さらに念入りにしらべあげられた。そのけっか、二つの新しい発見があった。
その一つは、議事堂の塔から落ちた怪少年の死体――これは死体といっても、マネキン人形のからだなのであるが――その死体が、それを入れてあった箱の中にはなく、手や足や胴などがばらばらになって、箱の外にほうりだされていたことである。
そして、それを集めてみると、マネキン人形の首だけが足りなかったのである。
もう一つのこと。それは、たずねるマネキン人形の首の破片《はへん》と思われるものが、なくなった男の死体のはいっていた棺《かん》のうしろのところに、散らばって落ちていたことだ。
この二つのことが、なぜ起こったのか、すぐにはとけそうもなかった。
紛失《ふんしつ》した死体の主は、上野駅のまえで、トラックに追突《ついとつ》されてひっくりかえり、運わるく頭を石にぶつけて、脳の中に出血を起こして頓死《とんし》した四十に近い男であって、どこの何者ともわからず、ただ服の裏側に「猿田
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