邸《はりめはくしてい》へ行った。
博士邸は、あの爆発事件で、第二研究室が跡かたなくとんでしまって以来、住む人は留守番のほかに、検察庁から警官が詰めていたが、その人々もだんだんにへり、最後はただのひとりとなったが、今はそのひとりも常に詰めかけてはいず、三日に一度ぐらい、巡回《じゅんかい》にちょっと寄ってみるくらいだった。
警戒の方も、このくらいかんたんになっていることゆえ、世間《せけん》も、この事件をもはやわすれかけていた。
はじめ事件の捜査《そうさ》の指揮《しき》をとっていた長戸検事《ながとけんじ》は、もちろん、この事件をわすれてはいなかった。ひそかに毎日毎夜、頭をひねるのがれいになっていた。しかし表面にあらわれたところは、検事はやはりこの事件をわすれているように見えた。それは、この事件の捜査を蜂矢探偵に肩がわりをしたので、検事は任務から解放されたのだと、みんなはそう思っていた。
さて、蜂矢探偵のきょうのいでたちや、肩にかついだ道具は、なにを語るであろうか。
かれは、これまで針目博士邸につぎつぎに起こった怪事件を、くりかえし考えた。そのけっか、結論にたっすることができなかった。
(まだ方程式《ほうていしき》の数がたりないんだ)
結論をだすには、まだしらべがたりないところがあることが、はっきりわかったのだ。
そのたりない方程式の一つは、博士の第二研究室あとを掘りかえしてみることである。あの土の下から、かれは何ものかを発見したいと思っているのであった。
その爆破跡は、これまでに検察庁やその他の方面の人々の手によって、いくどとなく念入りに掘りかえされたのだ。しかし、ついに重大なる手がかりと思われるものは、発見されなかったのである。それなれば、これから遅ればせに、蜂矢が掘ってみたところが、何も出てくるはずがない。ところが蜂矢探偵は、あえてもう一度掘りかえす決心を立てたのだ。
かれは、博士邸《はくしてい》のさびついた門を押して、中へはいった。
貞造《ていぞう》じいさんに、まずことわっておく必要があると思い、かれをたずねた。
「やあ。どなたかね。わしは、このところ腰がいたくて、ずっと寝こんでいますでな。ご用があれば、こっちへずっと入ってください」
貞造は、そういって、ふとんの中から声をかけた。
そこで蜂矢は中へはいって、見舞《みまい》をのべた。それからかんたんに、その後、邸内《ていない》におけるかわったことはないかとたずねた。
「いやあ。さっぱりございませんな。どなたも、ずっと見えませんですよ。あまり静かで、墓地《ぼち》のような気がしてまいりますわい」
貞造は、そうこたえた。
蜂矢は、それからいよいよ第二研究室のあとに立った。かれは首をひねって、焼跡《やけあと》の四隅《よすみ》にあたるところをシャベルで掘った。下からは土台石《どだいいし》らしいものが出てきた。その角のところへ、かれは竹を一本たてた。それからなわをもちだして、竹と竹とを一直線にむすんだ。
するとなわばり[#「なわばり」に傍点]の中が、第二研究室の跡になるわけであった。
蜂矢は、それをしばらく見ていたが、こんどは別のなわ[#「なわ」に傍点]の切《き》れ端《はし》を手に持って、第二研究室跡のうしろへまわった。そこは、すこしばかりの土地をへだてて、石造りのがんじょうな塀《へい》が立っていた。そして塀の内側には、樹齢《じゅれい》が百年近く経ている大きなケヤキが、とびとびに生《は》えていた。
ちょうど、その研究室跡に近いところに一本のケヤキが、むざんにも枝も葉もなくなって、まる裸になって立っていた。それはもちろんあの爆発のために吹きとばされ、焼かれてしまったものであった。
蜂矢探偵は、なわの切れはしを持って、塀と枯《か》れケヤキとの間や、枯れケヤキと研究室跡の外壁《がいへき》のあったところと思われるあたりとの間をはかったり、いろいろやった。そのうちについに答えが出たものと見え、かれはつるはし[#「つるはし」に傍点]をふりかぶって、大地《だいち》へはっしとばかり打ちこんだ。
そこは、枯れケヤキの立っているところから研究室の壁へ向かって、四十五度ほどななめに線をひき、そのまん中にあたる地点であった。
かれはどんどん掘った。上衣をぬいで、シャツ一枚になって、えいやえいやと熱心に掘りつづけた。それがすむと、シャベルで土をすくって、わきの方へどかした。
自分の掘っている穴の中へ、かれの頭がだんだんかくれていった。ずいぶん深い穴を掘っている。まちがいではないのか。かれは自信を捨《す》てなかった。そして探さ四メートル近くにたっしたとき、かれは穴の中で思わず、
「しめた。とうとう見つけた」
と、思わずよろこびの声をあげた。直径《ちょっけい》七十センチばかり
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