の行方の捜査のこと。黒箱の中にはいっていた器械をしらべること。こわれた茶釜の行方をつきとめ、その破片をみんな集めることなどが、きゅうを要することだった。
 茶釜の破片あつめは、いまとなってはどうにも手おくれで、いたしかたがなかった。あの事件の直後、小屋の中をめんみつに探したなら、破片あつめはあるていど、成功したかもしれないのだがいまとなって後悔《こうかい》しても、もうおそかった。
 けっきょく、ちゃんとはっきりのこっているのは、小杉二郎少年が拾ってきて、いま蜂矢の書斎の金庫の中にある一破片だけであった。この破片は、もしや奇怪なる生き返りでもして、家の中をコウモリのように飛びまわりはしないかと、気をもませたものであったが、事実そういうことは起こらなかった。まったくしずかに箱の中にはいっているふつうの金属片にすぎなかった。蜂矢は、はじめはこれが飛びまわるかと、おそれをなしたものの、飛びまわらないとわかったいまは、少々がっかりしているふうであった。
 雨谷君も、まず正気《しょうき》にかえって、いまではふつうの人のようになり、退院も間ぢかという話であった。この雨谷君に茶釜の破片を持っているなら、参考のために見せていただきたいと申し入れた。しかし雨谷君のところには、ひとつもないことがわかった。
 そうなると、蜂矢の家にある一破片は、いよいよ貴重なものとなった。
 ほかの破片は、いったいどこへ行ったのであろうか。
 それはたぶん、掃除夫が集めて、塵芥焼却場《じんかいしょうきゃくば》にはこび、そこで焼いてしまったのであろう。むかしなら、そういうときには、金属材料は大切にあつかわれ、横にのけておいて、製鉄所へ回収されたかもしれない。今はもうおそまつにあつかっているので、焼いたあとは、灰の中へうずまり、ますます深く地中へうずもれていったことであろう。
 もしもあの茶釜の中に、蜂矢探偵が想像したように、生命のある怪金属《かいきんぞく》がはいっていたものなれば、その生命は、どうなったであろう。
 茶釜が破壊したときにいっしょに、怪金属の生命も終ってしまったのであろうか。
 いやいや、そうかんたんには断定できないであろう。もともと怪金属は、非常に小さいものであるから、もし茶釜の中にそれがはいっていたとしても、茶釜が破壊したときに、その生命が不運にも二つに折られるようなことは、まずまずないであろう。
 そうだとすると、怪金属は、どこかに今も生きている可能性がある。可能性があるというだけのことで、かならず生きているとはいえない。この二十日間、世の中に、怪金属を思い出させるような怪事件が報道されないところをみると、怪金属はあるいはすでに、死滅《しめつ》してしまったかもしれないのだ。
 蜂矢探偵は、きょうは実験室にはいって、れいの黒箱を解体し、いろいろとしらべている。
 かんじんの真空管《しんくうかん》や同調回路《どうちょうかいろ》がないので、このしらべもなかなか困難であったが、しかし蜂矢探偵は、持ちまえのやりぬく精神をもって、こつこつと仕事をすすめていった。
 すると、とつぜん電話がかかってきた。
 蜂矢は、ドライバーをほうりだして、受話器を取りあげた。異様《いよう》につぶれた声が聞こえてきた。
「……もしもし。探偵の蜂矢さんは、あんたかね」
「そうです。蜂矢十六《はちやじゅうろく》です。あなたはどなたですか」
「蜂矢君。きみは身のまわりを注意したまえ。ひょっとするときょうあたり、おそろしい奴がたずねて――」
 電話は、そこでぷつりと切れた。そのあといくら電話局に連絡しても、さっきの相手はふたたび出なかった。
 通話はあきらめた。
 だがこれはおかしなことになった。あやしい客がくるという警告だ。あの通話者《つうわしゃ》は、いったい何者だろうか。同情者《どうじょうしゃ》なのであろうか。それとも脅迫者《きょうはくしゃ》がみずから電話をかけてきたのであろうか。
 ちょうどそのとき、玄関の呼鈴《よびりん》が鳴った。訪問客だ。はたして、さっき電話で注意をうけた怪人物の来訪であろうか。それともふつうの事件依頼人《じけんいらいにん》であろうか。
 蜂矢は、玄関へ出ていって、秘密の透視窓《とうしまど》ごしに、外にたっている訪問客のすがたを見た。まっ黒な長いマントに、おなじ黒の頭巾《ずきん》をすっぽりかぶった異様な人物が、まるで影のようにそこに立っていた。
 蜂矢探偵は、ぎくりとした。


   怪少年


 何者だろう。ふしぎな服装の訪問客は、顔を頭巾の奥ふかくかくしているので、誰だか見当がつかなかった。
「先生。あやしい人ですよ。おいかえしましょうか」
 小杉少年が、蜂矢探偵の方を心配そうな顔で見て、そういった。その訪問客は、長い黒マントの下にピストルぐらいかくしていそ
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