に、こっちがはまったことになる。まったくわれながらだらしがないわい」
検事は、苦笑してくやしがった。
「とにかくこの黒箱は持ってかえって、なおよくしらべてみましょう。時間をたっぷりかけてしらべると、もっとはっきりしたこの器械の性質なり使いみちなりがわかるかもしれません」
「そうしてくれたまえ」
そこでふたりは、ヤナギの木かげから腰をあげた。
「検事さんは、これからどうしますか」
「もう一度、二十世紀茶釜の小屋のようすを見てから、役所へもどることにしよう」
「では、おともしましょう」
ふたりは、道をひきかえして、浅草公園のうらから中へはいった。
さっきまで大にぎわいだった小屋のあたりには、もう人影もまばらだった。
小屋のまえに立ってみると、あの景気のよい呼びこみの声もなく、にぎやかすぎるほどの楽隊の楽士たちも、どこへ行ったかすがたがなく、表の札売場《ふだうりば》はぴったりと閉じられ、「都合により本日休業」のはり紙が四、五枚はりつけられ、そよかぜにひらひらしていた。
ふたりは、小屋の中へはいってみた。
なかには、もちろん見物人はただのひとりも残ってはいず、この小屋の雑用《ざつよう》をしているらしい老人が四、五名、のんきそうに舞台の上でタバコをすい、茶をのんでいるだけだった。
「おいきみ、興行主《こうぎょうしゅ》の雨谷《あまたに》君は、どこにいるのかね」
検事が、そういって、たずねた。
その筋《すじ》の人だということは、老人たちにもすぐぴーんときたらしく、かれらはぺこぺこと頭をさげて、
「へい、だんな。雨谷さんは、さっき寝台自動車《しんだいじどうしゃ》にのせられて、なんとか病院へ行きましたがね」
「どこか、からだの工合がわるいのかね」
「へい。なんですか、心臓が悪いとか、アクマがどうしたとかいってましたがね、あっしはよくみませんので。へへへへ」
茶釜小屋《ちゃがまごや》の終幕《しゅうまく》
その夜、小杉二郎少年が蜂矢のところをたずねてきたので、ひるま茶釜破壊の椿事《ちんじ》があってからあとの、小屋のなかのようすがだいたいわかった。
「あの雨谷《あまたに》という茶釜使《ちゃがまつか》いの人は、たしかに気がへんになったようですよ。はじめは舞台の上にうつぶして、わあわあ泣いていたんですが、しばらくすると、むっくり起きあがりましてね、歌をうたい出
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