つまずにすべて蜂矢につたえた。そしてそのあとで、なにか蜂矢のほうで質問があれば、それに答えるといった。
それに対して蜂矢はつぎのことを聞いた。
「第二研究室の爆発が起こるまえ、針目博士が皆さんを案内して、その部屋にはいったときのことですがね、博士の態度に、なにか変ったことはありませんでしたか」
「さあ、かくべつ変ったということも――いや、ひとつあったよ」
と検事はぽんと手のひらをたたき、
「すっかりわすれていたが、いま思いだした。それはね、あの第二研究室にはいると、博士はきゅうにおとなしくなったんだ。その前までは博士は気が変ではないかと思ったほど、ごう慢《まん》な態度でわたしを叱《しか》りつけ、悪くいい、からみついてきた。しかるにあの第二研究室へはいると同時に、博士はまるで別人のように、おとなしい人物になってしまったのだ」
「ふーむ、それは興味ぶかいお話ですね。しかしどういうわけで、そんなに態度が一変《いっぺん》したのでしょうか」
「それはわたしにはとけない謎だ」
「あなたはあの部屋へはいると、きゅうにはげしい頭痛におそわれたのでしたね」
「部屋へはいってすぐではなかった。すこしたってからだ。五分もしてからだと思う。それにさっきもいったように、この頭痛はわたしだけでなく、あとからきくと他の同僚たちも、みんなおなじように頭痛におそわれたそうだ。これと博士の態度とに、なにか関係があるのかな。いや、それほどにも思われないが……」
「そのとき博士のほうはどうだったでしょう。やっぱり頭痛になやんでいたようすでしたか」
「ちょっと待ちたまえ」
と検事は腕ぐみをしたが、まもなく首を左右にふって、
「いや、針目博士は頭痛になやんでいるような顔ではなかったね」
「それはどうもおかしいですね」
このちょっとしたことがらが、後になってこの事件解決のかぎになろうとは、気のつかないふたりだった。
大学生、雨谷《あまたに》君
せっかく蜂矢探偵の登場を、みなさんにお知らせしたが、ここで蜂矢探偵のことをはなれて、べつの事件についてお話しなくてはならない。それというのが、まことに前代未聞《ぜんだいみもん》の珍妙なる事件がふってわいたのである。
東京も、中心をはなれた都の西北|早稲田《わせだ》の森、その森からまだずっと郊外へいったところに、新井薬師《あらいやくし》というお寺が
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