いうと、後《あと》からあらわれた博士の方がいっそう青い顔をしている。
 ところが顔いがいのところを見ると、だいぶんちがいがあった。蜂矢探偵を壁のところにまで追いつめた針目博士の方は、いやに高いカラーをつけて、くびのところが窮屈《きゅうくつ》そうに見える。また頭部に繃帯《ほうたい》をしている、その上に帽子をかぶっている。
 これにたいして、あとから現われた針目博士の方は無帽《むぼう》である。頭には繃帯を巻いていない。
 服装は、蜂矢探偵を追いつめている針目博士のほうは、黒いラシャの古風《こふう》な三つ|揃《ぞろ》いの背広をきちんと身につけているのに対し、あとからあらわれた針目博士の方は、よごれたカーキー色の労働服をつけていた。服はきれいではないが、小わきにりっぱな機銃《きじゅう》みたいなものを抱えている。
「動くと、これをつかうぞ。すると、金属はとろとろと溶《と》けて崩壊《ほうかい》する」
 あとからあらわれた針目博士が、はやくちに、だがよくわかるはっきりしたことばでいった。
「待て、それを使うな。わしは抵抗しない」
 始めからいた針目博士が、苦しそうな声で押しとどめた。もはや蜂矢探偵の頭上に、一撃を加えるどころのさわぎではない。かれ自身がすくんでしまったのだ。
「蜂矢さん。もうだいじょうぶだ。横へ逃げなさい」
 あとからあらわれた針目博士がいった。
 いったい、どっちがほんとうの針目博士であろうか。
 蜂矢探偵は、壁ぎわをはなれて、自由の身となったが、この問題を解《と》きかねて、あいさつすべきことばに困った。
「おい、金属Q。こんどは、廻れ右をして壁を背にして、こっちへ向くんだ」
 金属Q――と、しきりに、あとからあらわれた博士が呼んでいるのが、はじめからいた方の針目博士のことだった。――ほんとかしら――と、蜂矢は目をいそがしく走らせて見くらべるが、顔はよく似ていて、くべつをつけかねる。
 金属Qと呼ばれた方の博士は、しぶしぶ動いて壁に背を向け、こっちへ向きなおったが、とつぜん早口で叫んだ。それは、妙にしゃがれた声だった。
「きさまこそ、金属Qじゃないか。わしは針目だぞ、ごまかしてはいかん。しかし、わしは今、抵抗するつもりはない」
 頭に繃帯を巻いた方が、こんどは機銃みたいなものを抱《かか》えた方にたいし、金属Qよばわりをするのだった。これではいよいよどっちがほんも
前へ 次へ
全87ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング