なしにして、新金属などの創造にくらがえをしたのであろうか。惜《お》しいではないか。
さあ、この答は、まったくむずかしい。博士は金属製造ということに、よほど強い魅力《みりょく》を感じたのであるかもしれない。だが、金属製造などということが、生命誕生の研究いじょうにそんなに魅力があるとは思われないではないか。けっきょく察しられることは、二つである。かの生命誕生の研究がまったく行きづまってしまい、研究の方向をかえなくてはならなかったものか。それともひじょうに特別な場合として、金属製造という研究の命題が、特に博士をすっかりひきつけてしまうほどの、ある出来事があったのではなかろうか。
たぶん、あとの方があたっていると思う。なぜといって、前の方のように、あれだけ研究をつんだ生命誕生の研究が、一夜でばったり行きづまるようなことは、まずもって考えられないからである。
そうなると、博士をきゅうに金属Q製造の方へひきつける動機となった、そのある出来事なるものはいったい何であったか、はなはだ興味をひかれる。――とにかくこの問題は、じつはまだ解《と》けていない。それで、それはそれとして、針目博士がとつぜんわれわれの前へ脚光《きゃっこう》をあびてあらわれた、そのお目見得《めみえ》の事件について、これから述べようと思う。
それは恐ろしいなぞ[#「なぞ」に傍点]にみちた殺人事件であった。針目博士邸において、お手伝いさん谷間三根子《たにまみねこ》が密室においてのど[#「のど」に傍点]を切られて死んでいた事件である。
申しおくれたが、わたしは探偵|蜂矢十六《はちやじゅうろく》という者である。
密室の事件
この血みどろな事件を、あまりどぎつく記すことは、さしひかえたい。これはそういう血みどろなところをもって読者をねらうスリラー小説、もしくはグロ探偵小説とは立場を異《こと》にしているのであるから……
どのようにして谷間三根子《たにまみねこ》が死んでいたか。そして、そこはどんなぐあいに外からの侵入《しんにゅう》をゆるさない密室であったか――を、まずのべたいと思う。
谷間三根子はお手伝いさんであった。としは二十三歳であった。お三根《みね》さんと呼ばれていたから、これからはお三根と書こう。
お三根は、ほかのお手伝いさんとはちがい、ひとりだけ針目博士の研究所である煉瓦建《れんがだて
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