なんだ」
 伯爵が、首をふって立ちどまった。
 なにか特別のにおいが、さっきから玉太郎の鼻をついていた。生《なま》ぐさいような、鼻の中をしげきするようないやなにおいだった。
 はっくしょい!
 伯爵が大きくくさめをした。
 するとそのくさめがケンとダビットにうつった。最後に玉太郎も、くしんと、かわいいくさめをした。
「くさめの競争か。これはどうしたわけだろう」
 監督ケンがにが笑いをした。
「思い出したぞ。このにおいは、附近に恐竜の雌《めす》がいるということを物語っているんだ。警戒したがいい」
 伯爵が、顔をこわばらせていった。
「えっ、恐竜にも雌がいるのかい」
 ケンが、調子はずれな声をあげた。
「あはは、あたり前のことを。あははは」
 ダビット技師が、ふきだして笑う。
「笑いごとじゃない。先へ行く人は、大警戒をしなされ。はっくしょい」
 伯爵は、うしろで又大きなくさめを一つ。
 穴をしたへおりるほど、砂がくずれ、枯れた草木がゆくてをさえぎり、前進に骨がおれる。が、誰もこのへんでもときた方へ引返そうなどと弱音《よわね》をふく者はなかった。そうでもあろう。こわいとか危険だとか恐ろしいと
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