「ぼくは総督ではありませんよ」
 と、玉太郎ははにかむ。
「いや、あなたは総督です。われわれは総督がおられる、この島へ昨日上陸をゆるされたのですからねえ」
 伯爵は大げさな身ぶりともののいい方で、玉太郎へ敬意を表した。玉太郎は昨日のことを思い出した。
 さびしく海岸にひとり火をたいて睡《ねむ》りについた玉太郎は夢の中で、ラツールと愛犬ポチの姿をもとめていた。そのうちに大きな音がしたので目がさめた。波打際《なみうちぎわ》がさわがしい。多人数のののしる声やおびえた声。それにさくさくと、砂をふむ足音。玉太郎はおどろいて枯葉の寝床のうえにすっくと立ち上った。
 そのときである。一人の老いたる白人が、銃を手に持って彼の方へ突進してきた。焚火《たきび》が老人を赤々と照らした。老人は、焚火の前まで来ると、はたと膝を折って砂の上にふした。
「お助け下さい。神の子よ」
 老いたる人は祈りの声をあげた。それは玉太郎の姿にむかって、なげられたことは疑いない。火の向こうにすっくと立っている玉太郎の姿は、神々《こうごう》しかったにちがいない。
「神の御子《みこ》ではありません。この島に住んでいる人の子です」
 
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