先発隊員
「あ、火が見える。恐竜島に火が見える」
水夫が、マストの上でさけんだ。
「おお、火だ。あんな所に、なんの火だろう」
船長も火をみとめて、びっくりした。
伯爵閣下《はくしゃくかっか》には、あいかわらずそれが見えないので、いっそうさわぎたてる。
「海岸に火がもえている。……人影が見えない。……火は椰子《やし》の林にもえうつろうとしている」
船長は、望遠鏡に目をあてて、きれぎれにさけぶ。
「恐竜島に、まさか人間が住んでいるはずはない。あんなおそろしいところに、住めるわけはない。どうした火じゃろうか」
伯爵は、それが玉太郎の手ではじめられた、たき火とは知るよしもない。
だが、その玉太郎の姿が見えないのは、どうしたわけであろう。
そのわけは、大事件でも大秘密でもない。玉太郎はすっかり疲れきって、たき火のそばに、しゅろの蓆《むしろ》を寝床《ねどこ》にして、ぐっすりと睡《ねむ》っているのだった。長々と寝ているものだから、沖合の船から望遠鏡でこっちを探しても、見えないのであった。
「閣下、どうなさる。船は引返しましょうか、それともここからボートで上陸されますか」
「もっと、
前へ
次へ
全212ページ中66ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング