爵は、身分ににあわぬ品のわるいがらがら声で、船長によびかけた。
「なんべんお聞きになっても、ここですよ。おっしゃったとおりの地点で、まちがいなしですよ。それに、ごらんのようにあの島の形は、おあずかりしている水夫ヤンのスケッチと同じ形をしていますからねえ」
「その島の形じゃが、わしにはよく見えんでのう。これは八倍の双眼鏡《そうがんきょう》だがね」
「見えないことはありませんよ。しばらくじっと見ておいでになると、島の輪廓《りんかく》がありありと見えてきます。わしらには肉眼《にくがん》でちゃんと見えているんですからねえ。この見《けん》とうですよ」
そういって、くらやみでも目の見える船長は、セキストン団長の持っている双眼鏡をつかんで、それを船橋《ブリッジ》の窓枠《まどわく》におしつけ、そして正しい方向へむけてやった。
「さあ、のぞいてごらんなさい」
伯爵団長は、それをのぞいた。
「やっぱり、わしには見えん」伯爵は、がっかりしていった。「もっとこの船を、島の方へ近づけてもらおう」
「おことばですが閣下《かっか》、もうそろそろ珊瑚礁《リーフ》になりますんで」
「リーフになったら、どうするという
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