は、なかなか熱帯のことに、くわしいですね。熱帯生活をなさったことがあるんですか」
玉太郎は、ラツールがどんな返事をするかと待った。
「熱帯生活は、こんどが始めてさ。しかしね、二三年前に熱帯のことに興味をおぼえて、かなり本を読みあさったことがある。そのときの知識を今ぼつぼつと思い出しているところだ」
「そうですか。どうして熱帯生活に興味をおぼえたんですか」
「それは君、例の水夫ヤンの――」
と、ラツールがいいかけたとき、どこかで犬のはげしくほえたてる声が聞えた。ポチだ。ポチにちがいない。
二人は同時に木蔭《こかげ》から立ち上った。そしてたがいに顔を見合わした。
「どこでしょう。あ、やっぱりこの林の奥らしい」
「どうしたんだろう。玉ちゃん、行ってみよう。しかし何か武器がほしい」
ラツールは、筏《いかだ》の折れたマストに気がついて、そのぼうを玉太郎と二人で、一本ずつ持った。そして林の中へかけこんだ。
が、二人は間もなく、走るのをやめなければならなかった。というのは密林の中は、もうれつにむんむんとむし暑かった。汗は滝のようにわき出るし、心臓はその上に砂袋をおいたように重くなり、呼吸を
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