しかし神ならぬ身の知るよしもがなで、出発前の玉太郎にはそれを予測《よそく》する力のなかったのもいたし方のないことだ。
 玉太郎とラツール記者とは、乗船のその翌日に早くもなかよしになってしまった。
 そのきっかけは、玉太郎の愛犬《あいけん》ポチが、トランクの中からとび出して(じつはこのポチの航海切符は買ってなかった。だからやかましくいうと、ポチは密航《みっこう》していることになる)玉太郎におわれて通路をあちこちと逃げまわり、ついにラツール氏の船室にとびこんだ事件にはじまる。
 ラツール氏は、なんでも気のつく人間だったから、たちまちポチの密航犬なることを見やぶった。玉太郎も正直にそのことをうちあけた。
 そこでラツール氏は、このままにしておいてはよろしくないというので、自ら事務長にかけあって、この所有者不明の……そういうことにして……密航犬を、発見者であるラツール氏自身がかうこと、そしてこの犬の食費として十ドルを支払うことを承知させた。そこでポチは、息苦しい破れトランクの中にあえいでいる必要がなくなって、大いばりで船中や甲板《かんぱん》をはしりまわることができるようになった。玉太郎のよろこ
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