はいあがってきた。
「もう一息だ。元気を出して……」
マルタン氏が、やっと口をきいた。
「もう大丈夫。さあ行きましょう」
玉太郎も、しゃがれ声を出して、マルタン氏の先に立って、また走りだした。
さいごの椰子の木の林をとおりぬけ、二人は海岸にたっているテントめざしてかけた。
小屋の前に、人々はあつまっていた。にぎやかに、歌をうたったり、手をあげたり、おどったりしている。酒宴《しゅえん》がはじまっているらしい。
玉太郎とマルタンが近づくと、彼らは、酒によったとろんとした眼で、二人をよく見ようとつとめた。しかし首がぐらぐらして、はっきり見えないようすだ。
「だ、誰だ。こわい顔をするない。まあ、一ぱい行こう」
そういったのは、水夫のフランソアであった。その横には、水夫のラルサンがよいつぶれて、テーブルがわりの空箱《あきばこ》に顔をおしつけたまま、なにやら文句の分らない歌を、豚のような声でうたっている。砂の上には、酒のからびんがごろごろころがり、酒樽《さかだる》には穴があいて、そこからきいろい酒が砂の上へたらたらとこぼれている。
玉太郎もマルタンも、あきれてしまった。
そのむこう
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