った二人だけであるから、こんどの探検にも、つれて来たのである。
実業家マルタン氏。でっぶり太った実業家らしい人。こんどの探検で、なにか新しい事業を見つけるつもりらしい。
ケンとダビット。この二人はアメリカ人で、ケンは映画監督、ダビットは撮影技師。この探検のことを聞いて、すばらしい探検記録映画を作るいきごみで加入した。
モレロ。これは探検家へ一番たくさんの寄附をした人。顔にきずがあり、すごい顔をしている。一くせも二くせもある人物。
張子馬《ちようしば》氏。中国人で詩人だという。
この外《ほか》に、水夫のフランソアとラルサンの二人。
これで十人だ。
伯爵団長に急がされて、みんなそれぞれの持物を持ってボートの中へ乗り移る。
張さんが、食糧係で、二人の水夫をさしずして、水やパンなどをつみこむ。こうしてよういは出来た。伯爵が最後に乗りこもうとして舷梯《はしご》に一足かけたとき、
「閣下、ちょっと」船長がよびとめた。
「なにかね」
「さっきお話の恐竜は、あのとき死んだのですか、それとも生きのびたですかね」
「多分死んだろうね。なにしろ首を大砲の弾丸《たま》でけずられてみたまえ、君だって生きていられまい」
「なるほど。それで安心しました」
「しかしその恐竜が死んだという確証《かくしょう》はない。では、さよなら、ボールイン船長」
伯爵は握手をもとめて、ボートの方へおりていった。
そのとき西の方から、急に強い風が吹き起った。見ればまっくろな嵐の雲が、こっちへ動いて来る。雲の中でぴかりと、稲光《いなびかり》が光った。
舷側《げんそく》を、とがった波がたたきつけている。
とつぜん怪物|出現《しゅつげん》
「やれやれ、かわいそうに。ボートは大波にゆすぶられてすぐには島へつけないだろう」
「もう一時間おそく、本船を放れりゃよかったのになあ」
「とんでもない。こんなおそろしいところに、あと一時間もまごまごしていられるかい」
船長は、すばやく防水帽をかぶって、微速《びそく》前進の号令をかけた。
ばらばらと、大粒の雨が落ちて来た。
「半速。……おもー舵《かじ》いっぱい」
船がぐるっとまわりはじめる。島の火が、左うしろへ流れていく。
「おや船長。どういうんだか。舵がよくききませんが……」
操舵手《そうだしゅ》がうしろでさけんだ。
なるほどそういえば、いったん左うしろへ流れた島の火が、また正面近くへもどって来たではないか。
「おもー舵いっぱい」
「そのとおり、おも舵いっぱいなんですが、船が逆にまわっています」
「そんなばかなことがあるか。お前は何年舵をとっているんだ」
と、船長は操舵手を叱《しか》りつけながらも、なんだか背すじに寒さがはしるのを感じた。
そのときだった。舳《へさき》の方で、ごとんとはげしい音がして船が何か大きなものにぶつかったようす。エンジンが苦しそうにあえぐ。
「どうした。何だい、ぶつかったのは……」
船長はブリッジから顔を出して、雨にうたれるのもかまわず、舳の方へ声をかけた。
するとその方からの返事はなく、そのかわり、船橋の上の無電甲板から誰かさけんだ。
「船長。船の上に、何かいますよ」
「なにッ。何がいるって」
「メインマストの上のあたりをごらんなさい。なにか黒い大きなものが立っています。竜巻《たつまき》かな、いや竜巻じゃない」
船長はおどろいて、メインマストが見えるところまで船橋の上を大またでとんで行って、上をあおいだ。
そのとき、ぎょォううッというようなあやしい声を上の方で聞いた。
と思ったとたんに、ぴかりと電光が暗闇を一しゅんかんま昼のように照らした。
「あッ、あれだッ」
船長はもうすこしで気絶《きぜつ》するところだった。彼は見た。はっきり見た。おそろしい大怪物が、メインマストの上でくわっと口を開き、こっちをねめつけているのを。
恐竜だ。たしかに恐竜だ。
ついに、恐竜がやって来たのだ。
セキストン伯爵は、恐竜は昼間だけしか出ないといったが、夜も出るじゃないか。それならそうと、注意しておいてくれればいいのに……。
こまった。どうして恐竜とたたかうか。
大砲なんか、本船にはない。
それにしても、恐竜はもう死んだとばかり思っていたのに、なぜ現われたのか。
そうか、分った。首を大砲の弾丸でけずられた恐竜は、うらみにもえあがり、この船をおそって来たのだ。
おい、ちがうぞ。おれがやったことではないのだ。
と、ボールイン船長の頭の中は大混乱《だいこんらん》して、生きた気持もしない。
「船長、船長。あれは動物ですよ。海に住むとても大きな動物ですぞ」
わかっている、恐竜だ。
「恐竜だ。みんなピストルでも何でもいいから、あいつをうて」
「いや、うつな。あいつを怒らせると、た
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