で、キッドはどうしたの」
「キッドは宝を乾分共《こぶんども》にはこばせると、乾分達を一人残らず殺してしまった。だから世界中キッドの宝がどこにかくされたかを知っている者はないのだ」
「でも、セキストン伯はそれを知っていたのでしょう」
「そうだ。キッドは宝のかくし場所の秘密を自分の子孫にひそかにつたえたに違いない。セキストン伯は彼の子孫からこの秘密を買いとったか、又はぐうぜんの機会から知ったに違いない」
「それで探検隊を組織したんだね」
「そうなのだ。僕らは彼にだまされて、安い賃銀でやとわれてここにやって来たのさ。そのあげくが君らに会えたんだ」
「うん、よかったね」
「よかったとも、僕は助かったんだ。英国《えいこく》に帰れるんだ。文明社会にもどれるんだ」
「その宝はどこにあるか、君は知っているのですか、ラウダ君」
 今までだまっていた張が、後から声をかけた。
「知っていますよ。けれど恐竜がそれをまもっている。僕らにはとれないのです」
 張はがっかりしたような顔をした。
「君は少し喜びすぎているよ、ラウダ君」
 ケンが口をぎゅうっとむすんだ。
「君は僕らに会って帰れると喜んだが、僕らの乗ってきた船は、第一回のセキストンの探検隊と同じ運命をたどったんだ」
「え、じゃ、また恐竜にやられたんですか」
「そうだ。僕らはこの島に取りのこされてしまったんだよ。君の兄弟になったまでさ」
「……」
 ラウダは手にしていた湯呑みの缶をカラリと落した。その缶はカラコロリンと音をたて、ラツール記者の方にころがってきた。誰もそれをひろう者はいなかった。又誰も言葉なくだまり続けるばかりだった。


   ポチよ大手柄《おおてがら》だ


 一同はラウダの洞穴《ほらあな》で十分に休養をとった。海岸にのこっている連中に、自分たちがぶじでいることを知らせて安心させてやりたいと思ったが、まず体の疲れをとることが第一だった。
「おい、ポチ、お前は伝令《でんれい》が出来るね」
 玉太郎がポチに言った。ポチの首輪に手紙をつけて、みんなのところへ使いにやれば、みんなも安心するだろう。
「玉ちゃん、そいつは無理だよ。いかにポチが名犬だといっても、伝令の役は出来ないよ」
「でもラツールさん。ポチはとっても利口なんです」
「それだったら、すぐに君の危険なことを知って、僕に伝えてくれるはずだ」
 玉太郎はなんとも返事のしようがなかった。けれど、やらぬよりはいいだろう。無駄《むだ》になったら無駄になっただけの事だ。
「おいポチ、お前は僕らの手紙をもって、使いに行っておくれ」
 ポチはいいとも悪いとも感じないらしく、さかんに尾をふっていた。
「ラウダさん、手紙を書きたいんですが、紙と鉛筆はありませんか」
「紙と鉛筆なら、僕がもっている」
 ダビットが、胸のポケットから手帳を出した。それにペンシルがついている。
 ケンが手帳の紙を一枚ぬいて、それに玉太郎たちのぶじなことを書いた。これを玉太郎のぬいだ靴下に入れると、玉太郎はポチの首にゆわえつけた。
「ポチ、いってくれ」
 ポチはワンと吠《ほ》えた。玉太郎の気持がわかったらしい。
「ゆけ」
 玉太郎は命令した。
 ポチは悲しそうな眼を玉太郎にむけたが、玉太郎のいうことがわかったらしく、洞穴の中から出ていった。
「さ、僕らは一睡《ひとねむ》りしよう」
 ケンの言葉に一同は、洞穴のぐるりをとりまいている岩の床に足をのばすことにした。
 疲れがぐっすりとねむらせてくれた。
 どの位眠ったか。
 ワンワンとけたたましく吠えるポチの声に玉太郎がまず眼覚めた。
「ポチ、どうした」
 ポチは尾をふっている。ぶじに任務をはたしたといった誇《ほこ》り顔である。
 玉太郎はポチの靴下をほどいた。
 やっ、別の手紙が入っている。
「一同の無事なることを知って喜びにたえない。こちらでツルガ博士とネリ親子と自分は諸君の帰りをまっている。セキストン伯の連絡はない。モレロと二人の水夫フランソアとラルサンは行方不明だ。ともかく諸君の帰ることを我々は待っている。上陸地点から動かぬことを約束する。おそらくこの便りは仕事を十二倍もする愛すべき小さい犬によってケン及びその友達のもとに到着すると確信している。故《ゆえ》に二十四時間の間、我々はここにまっていることにしよう。マルタン」
 玉太郎はこの手紙を読んでおどり上った。
「ラツールさん。ケン小父さん、ダビットさん、張さん、それからラウダさん。みんな起きた、起きた、大事件《だいじけん》だ」
 そうさけびながら玉太郎は空缶《あきかん》をガンガンと打ちならした。
「おい玉太郎の玉ちゃん、どうしたんだい」
 ラツール記者が第一に眼をさました。
「恐竜がやって来たのかい」
 そういってとびおきたのはダビットだった。
「落ちついて、落ちつい
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