餌《え》にしません。象のようなものです。草と小さな魚を食事にしているのです。けれどその力は強く、いちど怒ったら巨船《きょせん》でもうち沈めるだけの事をやります。おとなしい割に兇暴《きょうぼう》な一面をもっています」
ラウダが説明してくれた。
「さあ、僕の洞穴に来るか、この船のキャビンへ御案内しましょうか」
玉太郎たちは疲れている。安全なところで一眠りしたいのが一番ののぞみだ。
「では少し歩きますが、私の洞穴にいらっしゃい。食事もあります。火もあります」
ラウダにつれられて、一同は洞窟の湖の方をめぐりながら、例の洞穴にむかった。
洞穴は四|米《メートル》四方の部屋が二つつながっている。まわりは腰をおろすに具合よく岩がけずられていた。そこは寝台にもなる。奥の部屋の中央には、小さい炉《ろ》が切ってあり、枯木がチロチロ燃えていた。から缶がかけてあって、白い湯気《ゆげ》を上らせながら湯がわいていた。
天井に具合のよい窓明りがあって、そこから光が太い帯をなして流れこんでいた。
ラウダは小さい缶に湯をうつし、一同にふるまった。
「ここは僕の住宅です。恐竜の心配もないし、雷雨《らいう》の危険もありません」
ケンは二枚着ていたシャツの一枚をラウダにあたえた。ダビットはポケットからはさみを出してラウダの髪をかった。
「こうすると、いささか人間らしくなる」
ラウダは大喜びだった。
「ラウダ君、君はどうしてここに住んでいるんです」
みんなが落着いてからケンが質問の第一をはなった。
「ラツール記者からもきかれたことですが、お話しましょう」
ラウダは奥から薯《いも》だとか、椰子《やし》の実をかかえてきた。それをきったり、焼いたりして食べるのだ。
「ゆっくり食事をしながら聞いて下さい」
ラウダは、みんなの眼が、自分に集中されているのを感じながら、ゆっくり話しはじめた。
「私はロンドン博物館に勤めていた者です。五年前、そうです、ちょうど五年前です。セキストンという人が探検隊を組織いたしました。彼は別に目的があったのですが、当時のその探検団の企画《きかく》は南の孤島《ことう》に住む生物を研究するということでした。私は理学も動物の方を研究していた者ですから、喜んで参加いたしました。そしてこの島にやって来たのです」
「セキストン伯のねらっていたのは、生物ではなく、この島にかくされている海賊の宝だったのではないのかな」
ラウダの話のとちゅうにケンが口を入れた。
「そうです。約八百八十年の昔、スペインの海賊船、ブラック・キッドがこの島にその財宝をかくしたという、しっかりした証拠があったのです。セキストン伯はそれを知っていました。そしてこの島に来たのです」
「それで、宝はさがせたのですか」
「さがせませんでした。二三枚の金貨をひろったようです。又波にくだけた宝箱の破片も得ました。ですから賊宝《ぞくほう》がこの島にあったということは証明されたのです。ですがそれを手に入れぬうちに引揚げざるを得なかったのでした」
「それは何が原因だったのです」
「恐竜です。恐竜がいる事で、探検団の連中はすっかり肚胆《どぎも》をぬかれてしまったのです」
「わかった。探検団は引きあげた。その船は恐竜におそわれて、乗組員はほとんど死んでしまった。残ったのはセキストン伯がたった一人だけだった。ということを伯が僕らに話していたっけ。けれど、もう一人生き残った者がいたのだ。彼はどんな方法かによって島にたどりついた。そしてこの孤島で救いを待ちながら一人生活していたんだ。その男はラウダ君、君だ」
「そうです。その通りです」
ダビットの説明をラウダは深く、大きくうなずいた。
そして、言葉を続けて、「いい落した処をおぎなうならば……」
「うん」
ケンがひざをのり出した。
「僕、ラウダはあれから五年間の間に恐竜の性質を研究した事、キッドの船をこの洞窟の中の湖に発見したこと。船の中には宝らしいものはなかったが、その宝は島の洞穴の一部にかくされていること。そしてそこへ行くには恐竜の巣をこえてゆかねばならぬこと。それを発見したのだ」
「さっき見た船、あれがキッドの船なの」
玉太郎は眼をかがやかせた。
「そうだ」
ラウダは湯を一杯のむと、
「ブラック・キッドは、自分の死期《しき》が近づいてきたのを知ると、かねてさがしておいたこの島にやってきた。この島の入江の洞穴の中に船を入れるだけの広さがあることを知っていた。しかも一度入れた船は岩をくずすことによって永久に出られぬ仕掛けになることも考えてあった。キッドは船をここに入れて、入口を岩でふさいだ」
「その時には、恐竜はいなかったの」
「さあ、そいつはわからん。恐らくいなかったのだろう、いても島の別の方面に住んでいたかも知れない」
「うん、それ
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