を分けて、奥へ奥へとはいっていった。左右にならぶ椰子の木の列を目当てに、両者の中間をずんずんと奥へ行くのであった。
 その道は、わざとそうしたものらしく、曲りこんでいた。外海《そとうみ》から発見されることをさけるためであろうと思われたが、その道の行きあたりに、この原始林の世界にはにあわぬ洋風の小屋があった。
 それは造船所であった。いや、おそまつなものだから、造船小屋といった方がいいであろう。
 戸は、あけはなしになっていた。
 三人が中へはいると、小屋の中も、雑草がおいしげって、足のふみ入れ場所もなかったが、その中から造船道具や船台やそれから造船材料などがちゃんとそなえられているのを見た。
「大いによろしいだ。じゃあ早速《さっそく》今日から、おれたちは船大工《ふなだいく》になるてえわけだ。吃水《きっすい》の浅いボートを一隻、できるだけ早く作りあげるんだ。いいかね、しっかりやってくれ」
 モレロはひとりじょうきげんで、二人の水夫にそういった。
「えッ、船大工ですって。わたしたちには、そんな経験はありませんよ」
「なくってもいい。たかがボート一隻こしらえるだけの仕事だ。ボートなら、お前たちは今までいやになるほど扱っているじゃないか」
「いったい、ボートをこしらえて、どうするんですか」
「あのぴかぴかの宝をよ、おれたちが洞窟の外からボートにのってはいって、すっかりちょうだいしようというんだ。えへへ、どうだ、世界一の名案だろうが」
 モレロは、すごい顔に笑みをたたえて、胸をたたいた。


   希望の綱《つな》


 洞穴の水は、だんだん水位をあげてきた。
「おい、もう胸のへんだよ」
 ケンがいった。その声が洞穴《ほらあな》の天井にこだまして、ガンガンとひびいた。
「明日の朝、眼がさめたら、僕たちは土佐《どざ》エ門《もん》と名前がかわっているだろうな」
 ダビットはおどけた口ぶりでいった。みんなを元気づけるためのじょうだんも、それが本当になる恐れが十分あると思うと、誰も笑う者はいなかった。
 死は刻々《こくこく》と四人の身体に、音もなくしのびよってくるのだ。
「もうすぐ首だ」
 空気が逃げてゆくので、水はぐんぐんましてゆく。このままでいったら、もうしばらくで、この洞穴は水びたしになる。
 入口はすでに水の扉でふさがれている。
 洞穴の中はもうまっくらだ。
「ダビット、大丈夫かい」
「ケン、元気だよ」
「玉太郎君は」
「僕も元気です」
「張さん、あなたは」
「私は故郷の山々を思っていたところです」
「みんな元気なんだね」
 ケンはこんな時にも落ちついている。四人が順々に声を出したので、誰がどの辺《へん》にいるかがわかった。
「ねえケン」
「なんだ、ダビット」
「僕のお尻がむずむずするんだよ」
「どうしたんだ」
「あ、魚だ、魚にくいつかれた」
 ダビットがとんきょうな声をあげた。
「あ、いててっ、痛い」
「つかまえればいいじゃないか」
「そうはいかんよ、片方の手でカメラを差しあげているんだからね、左手一本じゃつかまらないよ」
「そうか、それゃ残念だね、こっちへ来たらつかまえてやろう、おい、こっちへ追い出してくれよ」
「そうはいかない」
「ダビットの小父《おじ》さん。大きい、お魚ですか」
「うん。ポケットの中のパンくずをとりにきた奴なんだ。大きさは一センチ位かな」
「なあーんだ。じゃあ、食べられる心配はありませんね」
「ないとも、明日のおかずにとってやりたいところだよ」
 ダビットは元気がいい。
「あ、なんだこれは」
「どうしたい、玉太郎君」
 今度は玉太郎だ。
「ちょっと、あ、これ、なんだろう」
「たこでもとったかい」
 ダビットだ。
「いや、ちがう、ケン小父さん、ちょっと、これなんでしょう」
「これじゃ僕にもわからないよ、どうしたんだい」
「今、手にあたったものがあるんです」
「だから何がさわったんだよ、じれったいなあ」
 ダビットが近づいて来た。ケンも近づいてきた。
「あ、痛い、あケンか」
 二人は暗闇《くらやみ》の中でおでこをぶっつけあった。
「もう少し強くぶつかると、眼から火が出るところだった」
「その火で見とどけようという寸法だったのかね」
「小父さん、これです。僕の手にさわって、ええ、それ、ね、なんでしょう」
「ぬるぬるしているね」
「長いものですよ」
「まてよ」
 ケンは両手で、玉太郎のにぎっているものをおさえた。
「うん、こりゃ、むずかしいぞ」
「ね、なんでしょう」
「うん。綱だ。綱に苔《こけ》がついてぬらぬらしているが、たしかに綱だ」
「綱ですって」
「綱が、どうしてこんなところにあるのだろうね、ケン」
「そりゃ、これから考えるんだ」
 不安な中にも、みんなの心の中には希望の光がともった。
「太いのですか」
 張がたず
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