ところが、モレロが考えたようには、なかなかいかなかった。うまく命中してくれないのであった。そればかりか、とんでもないものに命中してしまった。眠っていた恐竜の鼻に、岩のかけらが、ごつんと命中したのであった。
 さあ、たいへん。恐竜がぐいと鎌首《かまくび》をもたげると、うなり声をあげて怒り出した。仲間の恐竜も目をさまして、びっくり半分、さわぎだした。そこへモレロがピストルをぽんぽんとぶっ放したものだから、さわぎは大きくなった。恐竜は、嵐のような息をはいて、人間どもにおそいかかったのであった。三人は今や最大の危機にさらされた。
 一方、洞穴の中にいちはやく避難した玉太郎にケンとダビット、それから張の四人組の方にも、一大危険がおそいかかった。
 というのは、運のわるいことに潮《しお》がだんだんあがって来たのである。四人のしめていられる場所は、刻々《こくこく》とせまくなって来た。早い時期に外へとび出した方がよかったかもしれない。だが、四人はすっかり疲労しきっていた上に、恐竜の咆哮がおさまるとともに、心のゆるみが一度に出て、四人とも前後もしらず、深い睡りに落ちていったのである。やがて気がついたときは、身体の一部が海水にひたされており、そして洞穴の入口は海水のために隙間《すきま》もなくふさがれていたのであった。
「おい、起きろ、起きろ」
 ケンがまっ先に気がついて、一同をおこした。ダビットは、足をすっかり水びたしになっていた。ケンと玉太郎はそれほどぬれていなかった。
「まだ潮はあがってくる。どこまであがってくるか分らないが、まさか天井までひたすことはあるまい。みんなこっちへかたまろう」
 一同は、きゅうくつなかっこうで、奥へ集った。
 どこまで水はあがってくるか。もうこのへんで停まるだろうと思いの外《ほか》、水は勢いをゆるめず、水位をあげてきた。
 ケンは、その頃、いやなことに気がついた。それはうしろの岩壁の穴から、空気がぬけていくということだった。もしこの穴がなかったら、洞穴は壺のようになっていて、潮が入るにつれ空気は圧縮されるけっか、海水をおしもどし、ある程度いじょうに海水を入れないですむ。ところが、壺の底に穴があいていると、空気は圧縮されないから、この洞穴はすっかり水びたしになってしまうおそれがある。いやなことは、このことだった。
 四人がはいりこんだ安全の洞穴が、四人が溺死《できし》の墓穴《ぼけつ》になろうとしているのだ。
 ああ、これも呪《のろ》われたる運命というべきであろうと、ケンは全身に冷汗《ひやあせ》をかいた。


   冒険の計画


 悪運がつよいということがある。
 モレロと二人の水夫の場合が、それであった。この三人は恐竜を怒らせてしまって、四頭からのはげしい襲撃をうけたが、あやうい瀬戸際をどうにか防ぎまもって、やっとのことで生命をひろった。すきを見て、三人は死にものぐるいのすばやさでもってロープをよじのぼり、むがむちゅうで地下道をかけぬけ、密林をかきわけ、ようやく海岸の基地《きち》へたどりついた。そのとき三人が三人とも、熱砂《ねっさ》の上に、おっとせい[#「おっとせい」に傍点]がたたきつけられたようなかっこうで人事不省《じんじふせい》におちいり、三十分ばかり死んだようになっていた。
 先へ逃げかえった実業家マルタンとツルガ博士親子の熱心な看護によって、やがて三人は息をふきかえしたのだった。
 その当座《とうざ》は、彼らも気まりがわるいと見えて、おとなしく神妙にしていたが、時間がたつに従って、元にもどっていったん悪運に乗るモレロは、翌朝になると早くも次のもくろみに手をつけた。
 彼は二人の水夫をつれて、海岸づたいに右の方へ歩きだした。
 それに気がついて、マルタンは天幕からとび出すと、大声で彼らを呼びとめた。そして彼らがどこへ行くのか知らないが、それよりも今日はすぐに恐竜洞へはいって、昨夜はついにかえらなかった玉太郎たちの安否《あんぴ》をたしかめ、必要なら救助作業をしてもらいたいものだと申入れた。
「まあ、それはあとでいいよ。もっとも、君が早くそれをやりたいというのなら、われわれにかまわず、先へやってくれてさしつかえなしだ」
 モレロは、そういうと、再びマルタンの方へふりむこうとせず、二人の水夫をうしろにしたがえ、砂をざくざくと踏んでいってしまった。
 三人は、いったい何をするつもりであろうか。
 そこをどんどんいくと、読者諸君もご存じのように、石垣式《いしがきしき》の小桟橋《こさんばし》がある。それを越えたところに、カヌーがひっくりかえったままになっている。
 そこを右手へまがる。やや切りひらいた土地があるが、今は雑草が人間の背よりも高くしげっていて、ちょっと見たところでは、足のふみ入れようもない。三人は、雑草
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