損だ……はて、どうしたら、あの岩のあるところまで、安全に行けるだろうか……」
ラツールはマルタンにかいほうされることになった。
玉太郎はケンから相談をうけて、このさい、伯爵の安否をたしかめるため、あの中段の崖から下へおりて、海水がみちている崖下をさがすことになった。
これは人道上、どうしてもやらなくてはならない仕事だった。
これに参加したのは、ケンと玉太郎の外に、冒険好きのカメラマンのダビットと、あとから救援に来た張詩人であった。
四人は恐竜を気にしながら崖下へロープを伝わって下りていった。
恐竜はおとなしく、昼寝をしているように見えた。
波がばさばさと洗う岩根をふみしめながら、四人は伯爵の姿をもとめて、先へ進んだ。
いつもケンとダビットが先に立っていた。この映画班は、時々撮影をやった。これはもちろん商売であった。貴重《きちょう》な収穫《しゅうかく》だ。そういうときには、玉太郎が先へ出た。
玉太郎が先へ進んでいるときのことであったが、波の岩のくぼみに、一つのされこうべが捨ててあるのを発見した。
「あっ、されこうべだ。伯爵のされこうべ……」
伯爵は恐竜にくわれて、こんななさけない姿になってしまったのかと思った。
ケンが追いついてきて、そのされこうべを手にとってみて、これは伯爵のものではないと断定《だんてい》した。
「見たまえ、波にあらわれて、骨が丸くなっているとこがある。よほど古いされこうべだ。伯爵のでないから、悲しまないでいいよ」
そういわれて少年は、胸をおさえて、にっこり笑った。
「じゃあ、誰の頭なんでしょうね」
「さあ、誰かなあ。とにかくこの恐竜の洞窟には、永い興味がある歴史があるんだね」
しばらく行くと、一行は、岩根に、おびただしい人骨《じんこつ》を発見した。
「やあ、これはたいへんだ」
「いやだね、ぼくたちはこんな風になりたくない」
一行四人は、その前に立ったまま足がすくんでしまった思いだった。
慾《よく》ふかども
恐竜の洞窟の断崖での上では、モレロがひじょうに昂奮している。彼のすごみのある顔が、一そうけわしくなり、頬はひっきりなしにけいれんし、眉はぴくぴくと上ったり下ったり。そして急に歩きだしたり、また急に足をとめたり、落ちつきがない。しかもその間に彼は、海面に眠る恐竜の群から目をはなさない。
「ふーン。畜生め」
彼はうなる。
二人の水夫フランソアとラルサンも、モレロをこのように昂奮させた岩の上の黄金色まばゆき何物かを見つけてしまった。二人はむきだしに思っただけのことをさっきからしゃべっている。
「おいラルサン。おれたちはいよいよ百万長者《ひゃくまんちょうじゃ》になるんだぜ。あのぴかぴかしているのは、恐竜の卵なんだ。え、すばらしいじゃないか、恐竜は、あんなにぴかぴかと金色にひかる卵をうむんだぜ」
「フランソア、気をしっかり持ってくれ。たとい恐竜の卵を見つけたにしろ、どうしておれたちは百万長者になれるんだ」
「二人でな、この崖を下りて、あれを取るんだ。フランスまで持ってかえれば、一箇につき五万フランや十万フランで買い手がつくよ。いや、もっと高く売れるかもしれない」
「恐竜の卵が、そんなにいい値段で売れるかい、いくらぴかぴか金色に光っていても、卵だもの、とちゅうでくさりゃおしまいだ」
「あほうだよ、お前は。恐竜の卵とニワトリの卵といっしょになるものか。恐竜の卵は、すぐにはくさらないんだ。金色をしているのが何よりの証拠《しょうこ》じゃねえか」
「金色していると、永くくさらないのかい」
「はて、分り切ったことをいう。金色だから、熱もはじくし、中へバイキンも侵入できないし、おおそうだ、お前も見て知っているだろうが、ロンドンの博物館に恐竜の卵がたくさん陳列してあったじゃないか」
「ああ、あれなら見たよ。あれがどうかしたか」
「どうかしたかもないもんだ。あれは五百万年前の恐竜の卵なんだ。五百万年も、あのとおり、くさらないで、ちゃんと形をくずさないでいるじゃないか」
「そうかなあ」
「だからよ、ここから、フランスまではこぶのに、二週間あれば大丈夫だから、その間にくさることはありゃあしないよ。なにしろ五百万年もくさらない卵なんだからねえ」
「ふーン。分ったようでもあり、まだすこしのみこめないところもあるんだが……」
「お前はいつものみこみが悪いさ。頭がすごく悪いと来てやがるからね」
「しかしだなあ、フランソア。そうときまったら、早くあのぴかぴか卵をもらってこようじゃないか。お前、先へ行って、あそこへ泳いで卵を一箇か二箇ぐらい取って来るんだ。おれはその間に、細いロープで籠《かご》をあんでおくからね」
「それでどうする」
「おれがその籠を、ロープで崖下へ下ろさあ。お前は恐竜の卵を籠に入れて、
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