岩壁《いわかべ》であり、そしてやはりひたひたと海水に洗われていた。
「おや、あそこの岩に、人が倒れている」
玉太郎は、重大なることを発見した。その岩壁はまん中あたりでちょっと段になっていたが、その段の上に、誰か倒れているのであった。
「あ、ラツールさんだ。ラツールのおじさんだ。みんな来て下さい」
玉太郎は昂奮した。下をさしながら、彼はどなった。その声は、わんわんと大きく洞窟をゆすぶってひびきわたった。四頭の恐竜が、鎌首《かまくび》をもたげて、じろりと、こっちを見た。
冒険|救助作業《きゅうじょさぎょう》
撮影監督のケンもカメラマンのダビットも、撮影ちゅうししてそばへとんできた。
「あそこです。崖のとちゅうに人間がかかっているでしょう。あれがラツール記者なんです。やっとラツールさんのいどころが分りました。早く救って下さい。なんとかして生命をたすけてあげて下さい」
玉太郎は泣かんばかりに熱心を面《おもて》にあらわして、ケンやダビットにたのんだ。きょとんとしている老伯爵にもたのんだ。
「よし。ロープを下してたすけよう」
ケンもダビットも、義侠心《ぎきょうしん》が強かったから、すぐこの人命救助にのりだした。玉太郎はうれしくて、胸がいっぱいになった。
「これでまに合うかな」
「大丈夫、あそこまでとどきますよ」
「とどくことは分っているが、このロープはすこし古いからね。切れやしないかと思う」
「大丈夫でしょう、こんなに太いんだから」
ケン監督は、大胆《だいたん》の中にもこまかい注意をはらう男だった。ロープは、撮影のときカメラマンのダビットをつりさげたりするために、とちゅうで手に入れたものだったが、すこし古びていた。一人の身体をささえるにはだいじょうぶだろうが、救助作業のときは二人いっしょにこのロープへぶら下る場合が予想されるので、そのときのことをケンは心配したのだ。
ダビットの方は、そんなことを気にもとめていなかった。
「ダビット。君が先へおりてくれ」
「よろしい」
ダビットはすぐロープを自分の腰にぐるぐるとむすびつけた。ケンはロープの他のはしをにぎって、伯爵と玉太郎に、それをしっかりにぎってうしろへ下がり、腰をおとすように命じた。
ケンは岩鼻のところに立ち、ダビットが岩をこえてそろそろ下へおりていくのをちゅうい深く手つだった。ダビットは、こういうことにはなれていると見え、要領《ようりょう》よく身軽に、しずかにするすると下りていった。
ラツールの倒れている中段の岩までは、上から測《はか》って十四五メートルあった。ダビットはついにそこへおりつくことに成功した。彼はさっそくラツールの身体を調べにかかった。
「ダビット。どうだ。生きているか。けがをしているか」
ケンは手をメガホンのようにして、下にいる同僚にたずねた。
「……大丈夫だ、生きている。大したけがはない。しかし弱っている。なんか注射でもしてやりたい。それから多分水と食物だろう」
ダビットは下から報告してきた。
玉太郎はラツールが生きていると聞いて、たいへんうれしかった。大したけがをしていないとは幸運だ。たぶん彼は、永いあいだ食物も何もとらないので弱り切っているのだろう。
「やっぱり、ぼくが下りていかないとだめだな。それではと……」
ケン監督は、注射薬とその道具を持っていたので、下へおりていく決心をした。そこで上でロープをひっぱっている人数が二人になるので、それでは力が足りないから、伯爵と玉太郎をうながして、ロープのはしの方を、後方《こうほう》にとび出している手頃な岩にぐるぐるぐるとかたく巻きつけた。これならもう大丈夫だ。
「わしが下りよう」
伯爵がケンをおしのけていった。
「とんでもない。ぼくが下ります。注射もしなくてはならないのです」
「いや、わしだって注射はできるぞ」
「まあまあ。ここでまっていて下さい」
「そうかね。それでは行って来たまえ。そしてすんだらすぐ上ってくれ。下でぐずぐずしたり、余計なよそ見をするんじゃないよ」
「なにをいうんですかい、おじいちゃん」
そのとき、ケンは伯爵の気持を知らなかったので、笑いでうち消した。
ケンはするするとロープをつたわって下へおりた。そしてダビットを手にして[#「ダビットを手にして」はママ]ラツールの身体にいく本かの注射をうった。ラツールの顔が赤い色にもどった。心臓も強くうちはじめ、呼吸もしっかりして来た。
もうだいじょうぶと思われた。
悲劇は来《きた》る
だが、ラツールはひとりで立っている力はまだなかった。たいへん衰弱《すいじゃく》していたのだ。
「どうするかね、ケン」
と、ダビットは、救った男のしまつについて相談した。
「どうするのが一番いいかな」
二人はラツールのそば
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