で協議を始めた。その間、ケンとダビットは煙草に火をつけ、相談しながら、ものめずらしげに下をじろじろと見まわしていた。
「おや、あれはなんだ。あの岩の上に、ぴかぴか光っているものがある」
ケン監督がゆびさした。それは、さっき恐竜がはいあがっていた平らな一つの岩の上であった。
「洞窟の宝もの。金貨にダイヤモンドに、その他いろいろの高価な宝石……じゃないかな」
ダビットは、おどけた調子でそういった。彼はじょうだんをいったのである。
「はり倒すぜ。お伽噺《とぎばなし》じゃあるまいし。さあお伽噺より現実の方がだいじだ。君はこのラツール君を背中にしばってこのロープをつたわってあがれるかい」
「オー・ケー。大いに自信がある」
ケンはぐにゃぐにゃのラツールをダビットの背にしばりつけた。ダビットは上から下っているロープへぶら下った。そしてぐうっと胸をちぢめてロープをのぼりはじめた。
そのとき、崖の上で、気がへんになったような人の声がした。玉太郎の声だ。
ケンは上をあおぎ見た。
「あッ、伯爵、なにをするんです。早くのいて下さい」
セキストン伯爵が、どういうつもりか、下へたれているロープをつたわって下りようとしているのだった。ケンはおどろいた。玉太郎も、とっさのこととて伯爵をとめるひまがなかったものと見える。
悲劇は、次のしゅんかんにやってきた。
ぷつり!
ロープは、岩鼻の角《かど》にこすれたところから、もろくも切断した。
めいめいの悲鳴。
ケン監督がロープの下へかけよって、両手を上へつきだしたのと、その腕の中へラツールとダビットの重い身体がどさりと落ちて来たのとがほとんど同時であった。三人は餅《もち》のように重なって岩の上にたおれた。
それにつづき、ほんのちょっとのあいだをおいて、はるか下の方で、どぼーンという大きな水音が聞え、そのあとには、わんわんと、気味のわるい反響が長くつづいた。
伯爵がもんどりうって海水の中に落ちたのであった。
上の岩鼻には、玉太郎がひとりいた。
玉太郎はとほうにくれてしまった。
ロープは切れた。そして下におちた。三人は岩壁《いわかべ》の中段に残った。セキストン伯爵は海中に落ちこんだ。どうすればいいだろう。
まず老伯爵の安否《あんぴ》が気づかわれたので、玉太郎は岩鼻からのびあがって、一生けんめいに老人の姿をさがしもとめた。だがとちゅうに岩がとび出していて、伯爵が落ちたあたりは見えなかった。
それでは中段にとりのこされたケンとダビットと衰弱しているラツールを救うために、玉太郎は手もとにのこっていたロープをといて、下にたらしてみた。だがロープは短すぎて、その高さの半分もとどかなかった。
「ああ、こまった。どうすればいいだろう」
四人の生命があやういのだ。玉太郎だけが自由をもっている。そして四人の生命があやういことを知っているのは、玉太郎だけであった。
「ぼくは責任重大だ。おちつかなくちゃ……」
と、彼は自分の心をげきれいした。
もうこうなれば、うしろへひきかえして隊員を呼んでくるほかない。玉太郎は、そこでケンたちとれんらくをとり地下道を急いで元来た方向へとってかえした。
「そうだ。多分、あの沼のところに、ツルガ博士とマルタン氏がいるはず……」
地下道をついに抜け、崖をすべり下りて、沼の畔《ほとり》まで来た。
と、彼はそこに、なんともわけの分らないきみょうな光景にお目にかかった。
その沼畔《ぬまほとり》に、ツルガ博士親子が身体をぴったりよせあっている。そして小さい竪琴《たてごと》を、ぽろんぽろんとしずかに弾いているのだった。それはいいが、二人の前には、恐竜のおそろしい首があった。この恐竜は沼の中から首だけを出して、博士親子をひとのみにしようとしているらしく思われた。
マルタン氏の姿が見えない。
いや、いた。氏は博士親子がもたれている太い樹のうしろに、腰をぬかさんばかりにがたがたとふるえていた。紙のように白い顔、丸い頭といわず額といわずくびといわずふきだしている大粒の汗は、水をかぶったようであった。
玉太郎は、気が遠くなりかけて、はっとわれにもどった。
いったいこれはどうしたのか。
奇蹟《きせき》の博士親子《はかせおやこ》
「うわーッ」
玉太郎は、その場の光景に気絶《きぜつ》しそうになり、自分でもどうしてそんな声が出たかと思うほどのすごい金切《かなき》り声を発した。
でも、誰だって、これを見れば、金切り声を出さずにはいられないだろう。だって、沼の中からぬっと恐竜が長い首をつきだして、もう一息でツルガ博士やネリをぱくりとのんでしまう姿勢をとっているのだった。
そこへ玉太郎が金切声を発したものであるから、恐竜の耳にもとどいたと見え、恐竜はくるっと首を横にまげて
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