ルもいなくなった。ポチさえ、どこに行ったかわからなくなった。絶海《ぜっかい》の孤島《ことう》に、自分ひとりがとりのこされている。このままでいれば、ひぼしになるか、病気になるかして、白骨《はっこつ》と化《か》してしまうであろう。玉太郎は心ぼそさにたえきれなくなって、砂の上にたおれた。そして大きな声をあげて泣いた。泣きつかれて、ねむった。
どのくらいねむったかしれないが、ふと目がさめた。脚《あし》のところへ、がさがさと何かがはいりこんで来たので、びっくりして目がさめた。
貝だった。一枚貝だった。
いや、手にとってみると、それは一枚貝を自分の家として住んでいるやどかりだった。
「なあんだ。やどかりか」
やどかりは、玉太郎の手のひらの上で、しばらくじっとしていたが、やがて急に足をだして、あわててはった。そして手のひらからぽとんと下に落ち、草の中にかくれた。
玉太郎は、草の中からそのやどかりをさがしだして、波うちぎわへほうってやった。
「そうだ、ぼくはひとりぼっちではない。この島にはやどかりもいる蠅もいる。蚊もいる。蟻もいる。それに魚もたくさんいる。ひとりぼっちじゃないぞ」
玉太郎は立ちあがると、胸をたたいた。
電球《でんきゅう》の魔術《まじゅつ》
玉太郎の心は、ようやく落ちつきをとりもどした。
「もう、じめじめしたかんがえはよそう。これから先の運命は、神様におあずけして、自分はのこりの生活のつづく間、ほがらかに生きて行こうや」
さとりの心が、玉太郎をすくった。彼はそれから、にわかに元気になった。口笛をふきながら、ぶらぶら海岸の白い砂の上を歩きまわった。
波うちぎわに、光るものがあった。
なんだろうと、そばへよって見ると、それは電球であった。
「こんなところに電球がある」
彼はそれを拾いあげた。べつにかわったところもないふつうの電球だ。しかしおよそこの無人島には、にあわぬものだった。
「漂流《ひょうりゅう》して、この島へ流れついたんだよ。やっぱりモンパパ号の遺物《いぶつ》なんだろう」
電球なんかこの島に用がないと思ったけれど彼は、それを拾って手にもった。この電球が、やがてこの島の生活になくてはならないものになろうとは、玉太郎は気がつかなかった。
波打ぎわをすすむほどに、漂流物はそのほかにもいろいろあった。木片、箱、缶に缶詰など、少しずつ
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