だったがそれを拾いあつめることが出来た。やがて石垣のあるところまで出た。
 たしかに人の手できずかれた石垣だった。しかしその一部は、こわれていた。そこから水がはいって、内側が入江のようになっている。
 石垣のはずれのところに、カヌーという丸木舟《まるきぶね》が、さかさになってすてられていた。
 どうしてすてられたのか、玉太郎には分らなかったが、これはスコールのときに波がおこって、この丸木舟を石垣越しにうちあげたものであった。
 玉太郎は、そばへ行って、このカヌーをつくづくと見た。外へ出た腕木《うでぎ》が折れていた。それを修理すると、彼は一つ舟をもつことになる。希望が一つふえた。そのあたりで引返すことにして、また元の場所へもどった。
 ポチも帰って来ていなかったし、ラツールの姿も、やはりそこにはなかった。しかたがない。腹がどかんとへった。
 椰子の木の根方《ねかた》をさがして、椰子の実をひろって来て、穴をあけて水をのんだ。それだけではたりない。
 さっき拾った缶詰をナイフでこじあけてみた。すると思いがけなく、ソーダ・クラッカーというビスケットのようなもので、塩味《しおあじ》のつよいものが、ぎっしりはいっていた。
「ああ、よかった。これだけあれば四五日は食べつなぎができる」
 玉太郎の元気は倍にふえた。たべた。それはかなり大きい角缶《かくかん》であったから、あとはまるでそっくりしているようであった。
 腹が出来ると、ねむくなって、又ねむった。その間に、蚊にくいつかれて目がさめた。太陽が西にかたむいた。やがて夜が来る。
「そうだ。火がほしい」
 火がないと、こういう土地の夜はこわいとかねて聞いていた。
 ところがマッチがない。ライターもない。これでは火なしの生活を送らねばならないのだ。こまった。
 大いにこまりはてていると、ふと気がついたことがある。それは学校で実験をしたときに、ガラス球に水をいれ、それをレンズにして、太陽の光のあたる所へ出し、その焦点《しょうてん》のむすんだところへ、黒い紙をもっていくと、その紙がもえだしたことがあった。
 電球をさっき拾ってあった。それへ目が行ったとき、あの実験のことを思い出したのだ。玉太郎は、電球をにぎって波打ちぎわの方へ行った。そこで石を拾って、注意ぶかく電球の口金のところをかいた。しゅっと音がして、中へ空気がはいっていった。
 そ
前へ 次へ
全106ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング