どうしているだろう。
玉太郎の胸の中は残して来て、別れ別れになった人々の安否《あんぴ》を気づかう気持で、一杯だった。だから、ダビットのようにあたりまえの景色に気をつかうだけの余裕はなかった。
「あ、あれはなんだ。おい、ケン!」
ダビットがあわてて叫んだ。
ダーンという大砲の音がしたのだ。
ダビットは崖のはしにかけ出していった。そしてその頂上から下を見た。
「わあ、大へんだ」
「どうしたダビ、なんだ!」
つづいて来たケンがダビットの顔を見た。
ダビットの眼は大きく見開かれ、口からは泡がふかんばかりのおどろきようだ。
「そんな目はブロンドの漫画にもないぞ」
「そんなんじゃないんだ。見てくれ、あれを、恐竜だ、恐竜と戦っているんだ」
「何、恐竜だって」
「ほら」
玉太郎ははしり出した。ラウダもはしってダビットのそばに来た。
「うーん」
ラウダが、さけんだ。
「あれは、モレロさんじゃないか」
玉太郎もさけんだ。
ダビットはカメラをとりあげた。
「人道上《じんどうじょう》には反するけれど、絶好《ぜっこう》の場面だ。ケン、ラウダ、玉太郎、早く救助に行ってくれ、僕もすぐあとを追う」
そういわぬうちに、三人の姿はリスのように山の肌をかけており、恐竜の谷へころがるようにいそいでいた。
恐竜の巣《す》へ
ここで話を少し前にもどそう。なぜモレロが恐竜と戦っているのかを、読者はきっと知りたいに違いない。
フランソアとラルサンの二人の水夫はモレロの指揮《しき》にしたがって、丸木舟を作っていたことは読者のすでに承知のとおりだ。
その丸木舟が出来上ったのは、ちょうど玉太郎の一行が洞穴の横穴をいそいでまわって苦しんでいたころである。
「御苦労、御苦労、さあ、出来上ったら、御苦労ついでに海まではこぶんだ」
「やれやれ、まだ仕事があったんですかい」
「あたり前だ。ジャングルの中じゃ、ボートは進みはしない」
「そりゃそうですが、海に行ってどうするというんです。まさか、これで島から逃れようなんて、いうんじゃないでしょうね」
「だまって、俺のいうとおりをやりゃあいいんだ。つべこべいうと、どてっ腹に風穴《かざあな》をあけるぞ」
「へい、へい、やりますよ、やりますよ、何も海まで運ばないというんじゃありませんやね」
フランソアもラルサンも親分格のモレロにかかると、まるで赤
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