陽が水平線のよこにぴょっこり顔を出したころだったので、波は金色に、銀色に、また赤や紫にかがやいて、恐竜島の緑の島が刻々《こくこく》にさまざまな色彩で染めあげられていくところだった。
「きれいだなあ、絵より美しい。天然色映画よりきれいだなあ」
ダビットがあたりを見まわした。
「天然色フィルムをおいて来たのが、残念だった」
と首をすくめる。
ギイ、ギイ、と船は軽く波の上をすべって行く。
やがて、東海岸の入江。
そこへボートをつなぐと、一同は海岸づたいにしばらくまわって、山へ入った。
「あのあたりには椰子林があるし、天然の薯《いも》も少しはあるです。それから、こっちのあのジャングル地帯には食べられそうな草がある。蜜蜂《みつばち》の巣《す》なんかも御馳走だ」
ラウダは一つ一つ説明しながら先に立った。
みんなのいるのは西海岸だ。そこへ行くには恐竜の谷を越えるのが近道である。
「大丈夫、恐竜については、僕は自信がある。奴等は口笛の音が大好きなんだ。口笛で僕は彼等をあやつる術《すべ》を知っている」
「口笛」
「うん、あのピー、ピーというしずかな奴だ。奴等の一番恐れているのは雷だ。あの光をもっとも恐れる。だから、汽船のスクリューの音だとか飛行機の爆音なんか大きらいらしい。静かな高い音が、いいらしいね」
ラウダは自分の経験をすっかり話してくれた。
そこで思い出させるのはツルガ博士が沼のほとりで、竪琴《たてごと》をぽろんぽろんとしずかにひいているのをじっと聞いていた恐竜のことだ。奴等は音楽が好きらしい。
一行は島のジャングルをぬけて、恐竜の谷の上に出た。
「すばらしい眺めじゃないかケン、どうだこの朝日のかがやいた雄大な景観は、一カット行こうと思うよ」
「いいだろう。下からだんだん上にアップしたまえ」
ダビットのカメラがジー、ジーと音をたてた。
「上りきったところで、右に移動する。その樹のあたりで、海を入れてカットだ」
映画監督ケンの指導はなかなかこまかい。
「このあたりで、恐竜君出てくれないかな、わがラウダ君の口笛に合せて、恐竜がレビューでもしてくれると、ニューヨーク劇場で一ヶ年のロングショウになる」
カメラをおさめながらダビットの、相変らずの冗談口《じょうだんぐち》がつづく。
博士はどうしているだろう。少女ネリは無事かしら、それから実業家のマルタン氏、みんな
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