ことを聞くんだい」
「だって、ぼくはこれからそっと湾の方へ行って、本物の恐龍がどうしているか見てこようと思うんだ。しかし、もし恐龍の鼻がよくきくんだったら、ぼくが近づけば、恐龍に見つかって食べられてしまうからね」
「恐龍の臭覚《しゅうかく》は鈍感《どんかん》だと思う。なぜといって、ぼくらの作り物の恐龍のそばまで行っても、まだ本物かどうか分かりかねていたからね」
「じゃあ行ってみよう」
「ぼくも行く」
ぼくたちは、足音を忍《しの》びつつおそるおそる湾の見えるところまで行った。
「おや恐龍はいないぞ」
「ほんとだ。今のうちに、恐龍号に乗って逃げようよ」
「よし、急げ、早く」
今から考えると、そのときどうして恐龍号にとびこんだか、どうして出帆《しゅっぱん》したか、昇降口は誰がしめたのか、そんなことはすこしも記憶していない。とにかく生命を的《まと》にして、早いところ片づけて、沖合いめがけて逃げ出したのだ。もちろん潜航なんかしない。浮上したままの全速力で白浪をたてて走った。気が気ではなかった。今にも恐龍が追いかけて来るかと……。
ギネタ湾頭の浅瀬《あさせ》に艇をのしあげて、ぼくたちは「やれ
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