とサムとは、うんうんいいながら林を出て、艇のつないである湾の方へよたよた歩いていった。
 そのときである。サムが、「あっ」といって立ちどまった。
「どうした、サム」と、ぼくはたずねた。
「うむ。ぼくの目はどうかしているらしい。恐龍の首が二つ見えるんだ」
「あははは、何をいっているか」
 と、ぼくはばかばかしくなって、湾の方を見た。
「あっ!」
 ぼくの腕からヤシの実がころがり落ちた。ぼくの膝は急にがくがくになった。のどがからからになって、声がでなくなった。なぜ? なぜといって、ぼくは見たのだ。ぼくらの恐龍のそばに、もう一頭の恐龍が長い首をのばし、口を開いたり閉じたりして、のそのそしているのであった。それに、作り物の恐龍でないことは、一目で分かった。大きな胴が、マングロープをめりめりと押し倒している。長い尻尾が、ぱちゃんと大きくヤシの梢《こずえ》を叩く。ころころとヤシの実がころがるのが見える。ほんものの恐龍だ。
「逃げよう、本物の恐龍だ」
 サムもこのとき悟《さと》ったと見え、ぼくの腕をとった。ぼくは無言で廻れ右をして走り出した。密林の奥深くへ……。
「おどろいたね。この島には本物の恐龍
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