。今はいない。それは、この町のすぐとなりに火山が三つもあって、そのどれかが噴火していて、火山灰《かざんばい》をまきちらし、地震はあるし、ときどきドカンと大爆発をして火柱が天にとどくすさまじさで、こんな不安な土地には総督府はおいておけないというので、ほかへ移したんだそうな。
この町の、世界ホテルというのに、ぼくとサムは宿泊することになった。名はすごいホテルだが、実物はやすぶしんの小屋をすこし広くしたようなものであった。ただ、縁《えん》の下だけはりっぱであった。人間がたったままではいっても、頭がつかえないのである。
縁の下が、こんなにりっぱにこしらえてあるのは、この地方は暑いから、こうしておかないと床の下からむんむんと熱気があがってきて、部屋の中にいられないそうな。
だが、サムもぼくも、そんな縁の下があっても、やっぱり暑くて、ホテルの部屋の中にじっとしていることができなかった。そこで二人して、さっそく町を見物に出た。
町には、貝がらだの、珊瑚《さんご》だの、極楽鳥《ごくらくちょう》の標本《ひょうほん》だの、大きな剥製《はくせい》のトカゲだの、きれいにみがいてあるべっこう[#「べっこう」に傍点]ガメの甲羅《こうら》などを売っていて、みんなほしくなった。
サムなんか、もう少しで、一軒の土産もの店を全部買いとってしまうところだった。ぼくはサムを説《と》いて、はじめは見るだけにして、一ぺん全部を見てあるいたあとで、明日にでもなったら、一番ほしいものから順番に買ってゆくことを承諾させた。サムは、しぶしぶそれを承諾したのだ。
ところが、ぼくたちが海岸に出たとき、ぼくは、せっかくサムにいいきかせた掟《おきて》を自分でぶち破るようなことになった。それほど、ぼくはすばらしくほしいものを見つけたのである。ぼくだけではない。サムもそれを見、その値段のやすいのを見ると、ぼくより以上に、それを買うことに熱をあげた。そのものは、砂浜にゴロゴロと、いくつもころがっていた。それは小型の潜水艇《せんすいてい》であった。二人で操縦《そうじゅう》のできる豆潜《まめせん》なのであった。
売り主の話によると、これらの小さい潜水艇も、前にはずいぶんこの方面で活躍したそうである。ところがこれらの船を活躍させた国は戦争に負けてしまい、これらの船をたくさん置き放《ぱな》しにして逃げてしまったという。そこで豆潜は競売《きょうばい》に出たが買い手がないために売れなかった。そして、なんども競売をくりかえし、なんでも、十何回目かに、今の売り主が一たばにして買ったんだそうであるが、それはとほうもなくやすい値段だったそうである。
売り主が、そういうんだから、うそではあるまい。それに、じっさいその豆潜についている値段札を見ると、ほんとにやすいのである。ぼくたちは、模型《もけい》の電気機関車とレールと信号機などの一組を買うだけのお金で、その豆潜一隻を買うことができるのだった。ただみたいなものだ。
「ジミー、これを買おうや」
「うん、買おうな」
サムもぼくも、このとき、皿のように目をむいて、目をくるくる動かしていたそうだ。ほしいものにぶつかって、うれしさに身体がふるえていたんだろう。
買っちゃった!
豆潜水艇を一隻。とうとう買ってしまったのだ。
すばらしい計画《けいかく》
ぼくたち二人は、しばらくその豆潜水艇|恐龍号《きょうりゅうごう》(どうです、すばらしい名前ではないか)の運転を習うために、ギネタ船渠《ドック》会社へ通った。技士《ぎし》のアミール氏は、元海軍下士官で潜水艦のり八年の経歴がある人だそうで、ぼくたちに潜水艦の操縦を教えるのは上手であった。
「なあに、こんなものの操縦なんか、わけはない。自分が人間であることを忘れて、魚になったつもりで泳ぎまくればいいんだ。ほら、このとおり……」
アミール技士は、潜水艦を海面からさっと沈めたり、また急ぎ海面へ浮きあがらせたり、まるで自分が泳いでいるようにやってみせるのであった。
「ただ、忘れてならないことは、潜《もぐ》るときに、上|甲板《カンパン》への昇降口が閉まっているかどうか、それは必ずたしかめてからにすること。いいかね」
「はいはい。聞いています」
「それから、潜るときの注意としてもう一つ。それは上甲板に水につかっては困るものが残ってやしないか、それに気をつけること」
「なんですか、水につかっては困るものというと……」
「実例をあげると、すぐ分る。たとえば、上甲板に人間が残っている。それを忘れて、そのまま艇が海の中に潜ってしまえば、その人間は、たいへん困るだろう。困るどころか、溺死《できし》してしまうからね」
「ははーん、なるほど」
「第二の例。上甲板に、虫のついた小麦粉を陽《ひ》に乾《ほ》してある。それを中へ入
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