か。あれは絶対秘密にして置いたつもりだが、実は――」
と、検事は大江山との今の話を忘れてしまったように、秘密事件について話しだした。それは今日|昼《ひる》すこし前、例の事件について調べることがあって迎《むか》えのために警官をキャバレー・エトワールへ振出《ふりだ》してみると、雇人《やといにん》は揃っているが、主人のオトー・ポントスが行方不明であるという。そこでポントスの寝室《しんしつ》を調べてみると、ベッドはたしかに人の寝ていた形跡《けいせき》があるが、ポントスは見えない。尚《なお》もよく調べると、床《ゆか》の上に人血《じんけつ》の滾《こぼ》れたのを拭いた跡が二三ヶ所ある。外《ほか》にもう一つ可笑《おか》しいことは、室内にはポータブルの蓄音器《ちくおんき》が掛け放しになっていたが、そこに掛けてあったレコードというのがなんと赤星ジュリアの吹きこんだ「赤い苺の実」の歌だったという。いまもってポントスの行方《ゆくえ》は分らない。――
その話をして、雁金検事は青竜王の意見をもとめたところ、彼は電話の向うで、チェッと舌打ちをして云った。
「雁金さん、ポントスは昨夜《ゆうべ》から今日の昼頃までに
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