ソリという気味のわるい音がした。
一郎は教授に耳うちして、室内の電灯のスイッチの在所《ありか》を訊《き》いた。それは室を入ったすぐの壁にとりつけてあるということだった。彼は教授の留《と》めるのも聞かず、勇躍《ゆうやく》飛んで出ると、スイッチを真暗《まっくら》の中に探《さぐ》ってパッと灯《ひ》をつけた。たちまち室内《しつない》は昼を欺《あざむ》くように煌々《こうこう》たる光にみちた。
「呀ッ、怪しい奴がッ!」
見ると黒板の左手にあたる窓が開いて、そこに一人の男が片足かけて逃げだそうとしていた。
「待てッ!」
と声をかけると、かの怪漢はクルリと室内に向き直った。ああ、その恐ろしい顔! 左の頬の上にアリアリと大痣《おおあざ》のような形の物が現れていた。
「ああ、彼奴《あいつ》だッ」
一郎はそう叫ぶと、なおも逸《はや》って怪漢に飛びつこうとする蝋山教授の腰を圧《お》さえて、教壇の陰にひきずりこんだ。
ダダーン。
轟然《ごうぜん》たる銃声が聞えたと思うよりも早く、ピューッと銃丸《たま》が二人の耳許《みみもと》を掠《かす》めて、廊下の奥の硝子窓をガチャーンと破壊した。一郎の措置《そち》
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