「ちょっと見て来よう」
と教授はメスを下に置くと、扉《ドア》をあけて廊下へ出ていった。廊下は長かった。漸《ようや》く入口のところへ出て、パッと電灯をつけた。
「誰だな。――」
と叫んだが、何の声もしない。
「誰だな。――」
そういって硝子越《ガラスご》しに、暗い外を透してみていた教授は、何に駭《おどろ》いたか、
「呀《あ》ッ、これはいかん」といってその場に尻餅《しりもち》をつくと、大声に西一郎を呼んだ。
その声はたしかに解剖室に聞えた筈だったけれど、西はどうしたのか、なかなか出て来なかった。蝋山教授は俄《にわ》かに恐怖のドン底に落ちて、急に口が出なくなって、手足をバタバタするだけだった。
「どうしたんです、先生!」
元気な声が奥から聞えると、やっと西一郎が駈けつけた。西にやっと聞えたらしい。
「いま怪しい奴が、その硝子のところからこっちを睨《にら》んだ。ピストルらしいものがキラリと光った、と思ったら腰がぬけたようだ。どうも極《きま》りがわるいけれど……」
「ナニ怪しい奴ですって?」
一郎は勇敢にも扉《ドア》のところへ出て、暗い戸外《そと》を窺《うかが》った。しかし彼には別に
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