つけていたが、やがて少年の方に向き直り、
「君は少年の屍体の辺もよく探してみたかネ」
「もちろん懐中電灯で探したんだけれど、何遍《なんべん》やってみても見つからなかったんです」
「ほう、そうかネ」
 少年は青竜王の顔をしげしげ見ていたが「まさか青竜王《せんせい》は赤星ジュリアたちを怪しんでいるのじゃないでしょうネ」
 青竜王はそれに応えようともせず、いつまでも黙ってパイプを吸いつづけていた。
 そのとき卓上電話のベルがリリリンと喧《やかま》しく鳴り響いた。勇少年が受話器をとりあげて出てみると、向うは赤星ジュリアを尋《たず》ねていった筈の大辻の声だった。
「ナニ丸ノ内で大騒ぎが始まったって? 青竜王《せんせい》が帰っていられるから、いま代るから待っているんだよ」
 といって、受話器を譲った。
 青竜王はうむうむと聴いていたが、やがて電話を切った。
「どうしたんです、青竜王《せんせい》」
「なアに、痣蟹が竜宮劇場の裏口を通っていたのを発見して、また警官隊と銃火《じゅうか》を交《まじ》えたのだそうだ。痣蟹はとうとう逃げてしまったので、疲《つか》れ儲《もう》けだ。しかし痣蟹は竜宮劇場の外を歩い
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