涙を嚥《の》んだ。そして懐中を探《さ》ぐると一と揃いの覆面を出して、ソッとジュリアの枕辺に置いた。――これを見た大江山は始めて気がついたらしく、ハッと一郎の顔を睨《にら》んだ。
「ジュリアの死と共に、覆面探偵も死んでしまったのです。もう探偵をするのが厭《いや》になりました」
 そういって青竜王ならぬ一郎は、卓越《たくえつ》した手腕《しゅわん》を自《みずか》ら惜し気もなく捨ててしまった。
 ジュリアの遺骸は、彼女と仲のよかった舞姫《まいひめ》たちが、何処からともなく持ってくる白い百合《ゆり》やカーネイションやマガレットの花束で、見る見るうちに埋《うず》もれていった。
     *   *   *
 一郎は臨終のジュリアから頼まれたとおりの謝罪のことを矢走千鳥《やばせちどり》に伝えることを忘れなかった。そして、これもジュリアの望んでいたように、彼は千鳥と結婚をした。二人の仲は極めて円満《えんまん》である。
「君は(――と一郎は愛妻《あいさい》のことを今もこう呼んでいた)青竜王と一郎とが同じ人物だったということを、ジュリアさんの亡《な》くなった時まで知らなかったろう」
「アラ自惚《うぬぼ》れ
前へ 次へ
全141ページ中139ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング