の広いガッチリした体躯の持ち主だった。そして黝《くろ》ずんだ変な洋服を着ていた。その幅広の肩の上には、めりこんだような巨大な首が載っていた。頭髪は蓬《よもぎ》のように乱れ、顔の色は赭黒《あかぐろ》かった。しかしなによりも一郎の魂を奪ったものは、その男の赭顔の半面にチラと見えた恐ろしく大きな痣《あざ》であった。
「待て――」
一郎は相手を見てとると、勇敢に突進していった。痣のある男はヒラリと身体をかわして逃げだした。
「オイ、待たないか――」
その怪人は、はたして弟四郎を殺した彼の恐るべき吸血鬼であるのかどうかハッキリ分らない。しかし折も折、この夕暗《ゆうやみ》どきに人も通らぬ石垣裏の蕗の葉の下に寝ているとは、たしかに怪しい人物に違いなかった。追いついて、組打ちをやるばかりである。
怪人は物を云わず、ドンドンと逃げだした。その行動の敏《すばや》いことといったら、どうも人間業とは思えなかった。高い石垣を見上げたと思うと、ヒョイと長い手を伸ばして、バネ仕掛けのように飛び越えた。まるで飛行機が曲芸飛行をしているような有様だった。一郎がようやく石垣を攀《よ》じのぼって、下の池の方を見下《み
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