》や林の小径《こみち》で魔物に逢うのも、この黄昏れ時だといわれる。
このとき公園の小径に、一人の怪しい行人《こうじん》が現れた。怪しいといったのはその風体《ふうてい》ではない。彼はキチンとした背広服を身につけ、型のいい中折帽子を被り、細身の洋杖《ケーン》を握っていた。どうみても、寸分の隙のない風采《ふうさい》で、なんとなく貴族出の人のように思われるのだった。しかし、その上品な風采に似ずその青年はまるで落付きがなかった。二三歩いってはキョロキョロ前後を見廻わし、また二三歩いっては耳を傾け、それからまたすこし行っては洋杖《ケーン》でもって笹の根もとを突いてみたりするのであった。
「どうも分らない」
青年は小径の別れ道のところに立ち停ると吐きだすように呟《つぶや》いた。そして帽子をとり、額の汗を白いハンカチーフで拭った。青年の白皙《はくせき》な、女にしたいほど目鼻だちの整った顔が現れたが、その眉宇《びう》の間には、隠しきれない大きな心配ごとのあるのが物語られていた。――彼はさっきから、懸命になって、何ものかを探し求めて歩いていたらしい。
「どうして、こんなに胸騒ぎがするのだろう」
青年
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