。「このパチノ墓地とかが飛び出して来たのでは、見当もなにもつかなくなりましたよ。一体これはどうしたことですかな」
そこで雁金検事は、パチノ墓地について、既に記《しる》したとおりの伝奇的《でんきてき》な物語をして聞かせ、「つまりパチノは皇帝の命令をうけ、莫大《ばくだい》な財宝《ざいほう》を携《たずさ》えて、日本へ遠征してきたが、志《こころざし》半《なか》ばにして不幸な死を遂《と》げたというわけさ」
大江山課長は、あまりにも奇異なパチノ墓地の物語に、しばらくは耳を疑《うたが》ったほどだったが、彼の足許《あしもと》に転《ころ》がっている骸骨や金貨を見ると、それがハッキリ現実のことだと嚥《の》みこめた。
「その物語にある莫大な財産というのは、僅かこればかりの滾《こぼ》れ残ったような金貨だの宝石なのでしょうか」
と大江山課長は不審《ふしん》げに云った。
「そうだ、儂が来たときから、この通り荒らされているのだが、もちろん既に何者かが財宝を他へ移したのに違いない。そいつは吸血鬼か、それとも痣蟹の先生だかの、どっちかだろう」
「イヤまだ重大な嫌疑者《けんぎしゃ》があります」と大江山は叫んだ。
「誰のことかネ」
「それはこのキャバレーの主人オトー・ポントスです。あいつがやっていたのでしょう」
「ポントスはどこかに殺されているのじゃないか。いつか部屋に血が流れていたじゃないかネ」
「そうでした。でも私はあのときから別のことを考えていました。それが今ハッキリと思い当ったんですが、ポントスは殺されたように見せかけ、実はこの莫大な財産とともに何処かへ逐電《ちくでん》してしまったのじゃないでしょうか。悪い奴《やつ》のよくやる手ですよ」
「そういう説もあるにはあるネ」
と雁金検事は、冷《ひや》やかに云った。大江山は検事の反対らしい面持を眺めていたが、
「――それで検事さんは、この事件をどうして知られたのですか。それから今お話のパチノ墓地の物語などを……」
検事はそれを訊《き》かれるとニヤリと笑《え》みを浮べ、「それは今朝がた、もう死んだものと君が思っている青竜王が邸《やしき》へやって来て、詳《くわ》しい話をしていったよ」
「なんですって、アノ青竜王が……」
大江山は検事の言葉が信じられないという面持だった。青竜王すなわち痣蟹は、そこに死んでいるではないか。
「そうだよ。彼は昨夜《さく
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