先刻《さっき》、君は私の手料理になる栄螺《さざえ》を、鱈腹《たらふく》喰《た》べてくれたね。ことに君は、×××××、箸《はし》の尖端《さき》に摘みあげて、こいつは甘味《うまい》といって、嬉しそうに食べたことを覚えているだろうね。
それで若し、私が、あのちどり[#「ちどり」に傍点]子《こ》の次兄であったとして、いやそう驚かなくてもいいよ、先刻、君が口中で味《あじわ》い、胃袋へおとし、唯今は胃壁から吸収してしまったであろうと思われる、アノ××××が、栄螺《さざえ》の内臓でなくして、実は、君の血肉《ちにく》を別《わ》けた、あの胎児《たいじ》だったとしたら、ハテ君は矢張り、
『×××××を、ムシャムシャ喰べてみたが、たいへんに美味《おいし》かった』
と嬉しがって呉れるだろうか、ねえ星宮君――」
「ウーム。知らなかったッ」
と、ふり絞るような声をあげたのは星宮理学士だった。その顔面はみるみる真青《まっさお》になり、ガタガタと細かく全身を震《ふる》わせると、われとわが咽喉《のど》のあたりを、両手で掻《か》きむしるのだった。
ああ、時はもうすでに遅かった。いま気がついて、ムカムカと瀉《は》
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