。いや心配するな、金はもっているぜ」
チーア卿は、ポケットから、何枚かの法幣《ほうへい》をつかみだして、皺《しわ》をのばす。
「へいへい。有難《ありがと》うございます。おっしゃったものは皆そろって居ります」
「へえ、皆そろって居るって、本当かね」
「嘘じゃありません。まあ、ごゆっくり召上って頂きましょう」
うすきたない屋台から、途方もない絶品佳肴《ぜっぴんかこう》がとりだされたのには、チーア卿も目をぱちくりであった。
「燻製も、一番うまいのはカンガルーの燻製ですな。第二番が璧州《ぺきしゅう》の鼠《ねずみ》の子の燻製。三番目が、大きな声ではいえませんが、プリンス・オヴ・ウェールス号から流れ出した英国士官の○○の燻製……皆ここに並べてございまさあ」
「ええっ、何という……」
チーア卿は顔をしかめた。
「旦那。おどろくのは後にして、一番から順番に召上ってごらんになすったら。おいしくなかったら、燻製屋の看板は叩き割られても文句を申しませんわよ」
と、ルス嬢も口を出す。
「いや、わしは……おれは、一番と二番とで沢山だ。ううい、いい酒だ」
チーア卿は酒に酔ったふりをして、その場のおどろき
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