向うに火の消えた街灯《がいとう》の柱が何事か云いたげに立っていた。その下に、長々と横たわっている黒い物があった。
「旦那方。あすこに、一件らしいのが見えますぜ」
刑事は私の方に身体を擦《す》りよせてきた。
「うん。伸びているようだナ。それッ」
三人はバラバラと、その方に近づいた。刑事の手から、懐中電灯の光がパッと流れだした。その光は直《ただ》ちに、地上に伏している怪しい男の姿を捉《とら》えた。雨あがりの軟泥《なんでい》の路面に、青白い右腕がニューッと伸びていて、一面に黒い泥がなすりついている――と思ったら、それは真赤な血痕《けっこん》だった。水色のアルパカの上衣にも、喞筒《ポンプ》で注《そそ》ぎかけたような血の跡が……。全くむごたらしい光景だった。
刑事は、倒れている若い男の横顔を照してみた。顔は血の気を失って、只《ただ》太い眉毛《まゆげ》と、長い鼻とが残っていた。歯を剥《む》き出した唇は、泥を噛んでいた。――と、刑事が叫んだ。
「呀《あ》ッ。……これア、赤ブイの仙太じゃないか!」
赤ブイの仙太! 仙太といえば刑事たちが、さっき私に訊《き》いたところの横浜《はま》の不良で、カン
前へ
次へ
全38ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング