横浜《はま》よ、さらば


 その夜更《よふ》けて、私は貨物船清見丸へ壮平親子を見送《みおくり》にいった。甲板《かんぱん》に堆高《うずたか》く積まれたロープの蔭から私たちは美しい港の灯を見つめていた。
「横浜《はま》を離れるとなると、やっぱり淋《さび》しいわ」
 と清子が丸めたハンカチを鼻に当てた。
「清子、贅沢《ぜいたく》をいっちゃ罰《ばち》が当るよ」と壮平老人が云った。「政どんが来てくれなくちゃ、お互《たがい》に今頃は屍骸《しがい》になって転がっていたかも知れない」
「でも……」
「ところが屍骸にならないばかりか、借金を返した上に、五千両の金まである。その上、言い分があってたまるか」
「感謝しているわ。あたしたちはいろいろと儲《もう》けものをしているのに、政ちゃんは損ばかりしているのネ」
「そうでもないよ」と私は笑った。
「どうだ政どん」と壮平老人はこのとき真顔《まがお》になって云った。「この辺で、一件の話を聞かせてくれてもいいじゃないか。あの倉庫から搬び出した中身のこと、それからお前が横浜《はま》へ流れてきた訳など」
「じゃ土産咄《みやげばなし》に、言って聞かせようか」
 
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