」
「……」
「そしてその五千円だが、それも爺さんにあげるよ。小さいときいろいろと可愛がって貰ったお礼にネ」
「五千円を?」と壮平老人は目を丸くして「五千円よりもその言葉の方が嬉しいが、一体わし達はどこへ行けばいいのかネ。こうなると、わしはお前のところから遠く離れるのが心細くなるよ」
老人は悦《よろこ》びのあとで、また両眼《りょうがん》をうるませた。
「満洲へゆくんだ。丁度《ちょうど》幸《さいわ》い、今夜十一時に横浜《はま》を出る貨物船|清見丸《きよみまる》というのがある。その船長は銀座生れで、親しい先輩さ。そいつに話して置くから、今夜のうちに港を離れるんだ」
「満洲かい。……それもよかろう」
「じゃ娘さんに話をして、直ぐに仕度にかかるんだ。外《ほか》には誰にも話しちゃ駄目だぜ」
「そりゃ大丈夫だ」と老人は肯《うなず》いて「じゃ、万事お前さんの云うとおりにしよう。それでは順序として、まず五千円の商談をして来よう」
「ちょっと待った」と私は老人を呼び止めた。「あの建物の取引だが、今夜の十時にするといって呉れ」
「莫迦《ばか》に遅いじゃないかネ。いま直ぐじゃ拙《まず》いのかい」
「ちょっ
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