証拠がないよ。入乱《いりみだ》れた靴の跡も無しさ。第二に、前から強迫《きょうはく》しているのに、背後《うしろ》から撃ったのでは、前にいる同じ仲間のやつに、ピストルが当りゃしないかネ。僕はそんなことじゃないと思うよ」
「じゃ、どう思う?」
「僕のはこうだ。仙太のやつ、ここまで来て金貨を数えていたのだ。ここは人通もない暗いところだけれど、向うの街の灯《あかり》が微《かす》かに射《さ》しているので。ピカピカしている金貨なら数えられる。そこを遥か後方《うしろ》から尾《つ》けて来たやつが、ピストルをポンポンと放して……」
「ポンポンなんて聞えなかった。……尤《もっと》も俺は消音《しょうおん》ピストルだと思っているが……」
「とにかく、遥か後方から放ったのだ。見給え、この弾痕《だんこん》を。弾丸《たま》は撃ちこんだ儘で、外へは抜けていない。背後近くで撃てば、こんな柔かい頸《くび》の辺なら、弾丸《たま》がつきぬけるだろう」
刑事たちは、その筋へ警報することもしないで、勝手な議論を闘《たたか》わした。それは所轄《しょかつ》警察署へ急報するまでに、事件の性質をハッキリ嚥《の》みこんで、できるならば二人
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